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死ぬほど面白い歴史マンガ『イノサン』超絶画力で描く心優しき処刑人の物語とは

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凄いマンガに出会ってしまった

こんにちは、daimaです。
本日は、『モートゥル・コマンドーGUY』や
孤高の人』で知られる漫画家、
坂本眞一先生の最新作である
イノサン』というマンガをご紹介します。

私と『イノサン』の出会いは
kindleの無料コーナーでした。

その耳慣れないタイトルと
精密な画風が気になり
1巻を試し読みしたのですが、
これが予想以上に滅茶苦茶面白く、
そのまま一気に全9巻を
まとめて読み進めてしまったのです。

本記事ではそんな『イノサン』の魅力を、
良い点だけでなく不満点についても触れた上で
じっくりご紹介したいと思います。

本記事にはマンガ『イノサン』のネタバレに関する内容が含まれます。閲覧の際はご了承ください。

イノサンのあらすじ

イノサンが描くのは、
かの名作「ベルサイユのばら」で
日本人にも馴染み深い、
18世紀の革命期フランスです。

当時のフランスは、
貴族たちの豪華な宮廷文化が華開いた裏で、
アンシャン・レジームと呼ばれる
厳格な身分制度によって、多くの市民が
極貧生活を強いられた不平等の時代でした。

またこの時代、
罪人に対する処刑
市中の広場などで公然と行われており、
これは市民に対する見せしめや、
残酷なショーとしての
娯楽の機能も果たしていました。

このようななりゆきから
処刑は国家の威信を背負う
失敗の許されない一大イベント
であり、
そのために、国王から委任された
高い技術と経済力を持つ処刑人の一族
ヨーロッパの各都市で活躍することとなります。



↑主人公、シャルル=アンリ・サンソン

そして、本作の主人公
シャルル=アンリ・サンソン
そんな名誉あるパリの処刑人
ムッシュード・パリを代々受け継ぐ
サンソン家の四代目当主候補です。

しかしながら
生まれつき繊細で心優しいシャルルは
処刑人に対する人々の偏見や
人を殺す家業に懊悩し、
処刑人の息子でありながら、
いつか死刑のない平和な世の中を
実現したいと考えるように
なっていくのです。

本作は、そんなシャルルが
正反対の激しい気性を持つ
妹のマリーと共に
処刑人としての人生を歩む中で、
かのマリー・アントワネット
フランス王ルイ16世らとも親交を持ち、
最終的にそれぞれの運命が
フランス革命というひとつの点に向けて
収束していく形をとっています。


イノサンのキャラクター紹介

シャルル=アンリ・サンソン

サンソン家の四代目当主にして、
類稀なる美貌を持つ本作の主人公。

生まれつき心優しい性格で、
少年時代には処刑人の訓練のための解剖で
耐えられず嘔吐してしまうなど
精神的な弱さが目立っていました。

ですが処刑の場数を踏み、
のちに父バチストの心情を知ったことで
サンソン家当主としての自覚に目覚め、
成人後はムッシュード・パリにふさわしい
凄腕の処刑人へと成長していきます。

しかしその後も
持ち前の優しい心は変わらず、
処刑の際も罪人の苦しみや
恐怖を和らげることを第一に考えており、
いつの日か死刑が廃止され
サンソン家が必要とされなくなる
世界を実現したい
という
決意を胸に秘めています。

自分の未熟さのために、
罪人に不必要な苦しみを与えて
死なせてしまった後悔から、
自分は生涯子孫を残さないと
誓ったこともありましたが、
後述するジャンヌに貞操を奪われて以降は
一転してパリ随一のプレイボーイに転向。

真面目で責任感が強い性格ですが、
グリファン元帥の本心に気づかなかったり、
9巻の結婚騒動でマリーに出し抜かれたりと
案外ぬけているところもあったりします。


マリー=ジョセフ・サンソン

シャルルの実の妹にして
本作のもう一人の主人公。
口ぐせは『最悪』

シャルルに似た美貌の持ち主ですが、
幼い頃から血や残酷さを好む性格であり、
女性が処刑台に上ることが
許されないサンソン家において、
動物の解体などを密かに行い、
独学で死刑執行人の技術を学んでいました。

後に本人の意向でベルサイユの処刑人、
レヴォテ・ド・ロテルの座に就いた際には
男装して自ら髪を刈り上げ、
スクリレックスや内海マークシティ
を彷彿とさせるパンキッシュな髪型に
大胆イメージチェンジ。

その反骨精神MAXな生き方から
保守的な人々からは反発を買い、後に
兄のシャルルとも袂を分かつこととなりますが、
女王マリーアントワネットを始めとして、
彼女の自分を曲げない生き方に
惹かれる人物も後を絶たちません。

レヴォテ・ド・ロテルの職を得る際に、
交換条件としてグリファン元帥によって
わずか8歳で弄ばれた苦い過去があり、
そのグリファンとはのちに意外な形で
再開することとなります。


シャルル=ジャン・バチスト・サンソン
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サンソン家の3代目当主にして
シャルルとマリーの父親。
非常に厳格で公正な性格で、
一族の義務を果たすことを
子供達にも強く求めていました。

しかし、過酷な処刑の任務をこなす内に
だんだんと精神のバランスを失っていき、
最後は若くして隠遁生活を余儀なくされます。

隠遁後に息子シャルルは
入室を禁じられていたバチストの部屋に入り、
そこでバチストの意外な一面を知ることとなります。


アンヌ・マルト
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2代目サンソンの妻であり、
シャルルの祖母にあたる人物。
シャルルの少年時代には
鉄の掟としてサンソン家を
実質的に支配していました。

孫たちを自分の望むように
教育するためならば、
体罰も辞さない恐ろしい人。
怒ると、夢に出そうなくらい顔が怖いです。


ニコラ-シャルル-ガブリエル

ベルサイユ宮殿の処刑人、
レヴォテ・ド・ロテルを務めるシャルルの叔父。
一見して優しく頼りがいあるように見えるが
その胸の内にはある野望を抱えていて…


マリー=ジャンヌ・ベキュー

朗らかな性格と
男を惑わす豊満な肉体を兼ね備えた
下層階級出身の女性。

シャルルを性の喜びに目覚めさせ、
後に下層階級としては異例の
ルイ15世の公娼にまで上り詰めました。


ロベール=フランソワ・ダミアン

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農村出身の貧しい農夫。
栄養失調で病気の息子がおり、その息子と
教会に無断で寝泊まりしていたところ、
窮状を哀れんだシャルルから施しを受けましたが、
その金を「いわれのない金は受け取れない」
として断るなど、気高く実直な性格の持ち主。

のちに、ある大事件を引き起こすことになる
イノサン前半のキーパーソンです。


ルイ=オーギュスト
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ルイ15世の孫であり、
のちのフランス国王ルイ16世。
欲望渦巻く宮廷の生活に馴染めず、
死にたいと願っていた少年時代に
偶然シャルルと出会い、シャルルを
やっと見つけた自分の(死)神として
一目で気に入ります。

王族にも貴族にも絶望していて、
かつてのシャルルと同じように
自分の代で王家の血を終わらせたい
という思いから子供を残さない宣言をし、
次代のフランス王を産む気満々でやって来た
マリーアントワネットを
初夜に放置プレイしました。

しかし、マリーアントワネットを
初めて見た時には「かわいい…!」
一目惚れし、マリーアントワネットが
自分に隠れて人に会っている事を知ると
嫉妬するなど、本心では彼女に
強い思いを寄せています。


マリーアントワネット
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オーストリア王家から
フランスに輿入れしてきた王女様。
フランス王の子を産むため、手練手管で
ルイ=オーギュストを落とそうとします。

端正な顔立ちと太い眉、
そして平坦な胸がチャームポイント。
後に、下層階級出身のジャンヌと
対立することとなります。


ルイ・フィリップ2世
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王家に連なるオルレアンの公子。
いつかはフランス王家を乗っ取ろうと
虎視眈々と狙っていて、
シャルルに弁舌で負けそうになった
手下の貴族の首を切り落として
奇声をあげて興奮したり、
ルイ16世の初夜の際には
自らのイチ○ツを象った張り方を渡して
挑発するなどかなりアブナイ人物。


イノサンのここがすごい!

見るものを捉えて離さない圧倒的画力。

イノサン』を読んで
最初に驚かされるのが、
その圧倒的な画力です。

前作「孤高の人」の頃から
その力強く正確な描写に
定評のあった坂本眞一先生ですが、
イノサン』ではその高い画力が
さらに進化し存分に発揮されています。

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(引用元:「イノサン」8巻 坂本眞一/集英社

例えばこの見開き。
精緻なデッサン力はもちろんのこと、
遠近感の効いた迫力ある構図や
キャラクターの表情など実に絶妙で、
生き生きとした動きを感じさせる
一枚に仕上がっています。

その精密な描写は人間に限らず、
動物や衣服、建築、装飾など
あらゆるものが驚くほど緻密に描かれ、
思わず息を呑むような凄い絵が
ページをめくるたび
バンバンでてくるのだから
とにかくたまりません。

坂本先生が
現在の日本でも最高レベルの
画力を持つ漫画家であることは
疑いようも無いでしょう。


徹底した歴史考証に基づいて描かれる処刑術や文化風俗

歴史マンガというジャンルは、
誰もが知る歴史上の偉人やイベントを、
そのまま作中に登場させることが出来る反面、
作品にリアリティと説得力を持たせるためには
当時の文化風俗に対する、深い知識と理解が
要求されるジャンルでもあります。

その点イノサンでは、18世紀フランスの
決闘作法やマナー、平民と貴族の格差や
宗教、ファッション、食文化、社会構造など、
当時の文化や生活ががきちんと描かれていて
思わず勉強になることも多いです。

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(引用元:「イノサン」8巻 坂本眞一/集英社

また、作中でシャルルや
マリーが披露する数々の処刑術も、
医学的な根拠が細かく捕捉されていて、
なるほど処刑人には確かに専門的な
医学知識が不可欠なんだなと
納得させられる面白さがありました。

ちなみに、坂本眞一氏は東大出身という
異色の経歴を持つ漫画家であり、
その点もまた、本作の時代考証の緻密さに
一役買っているのかもしれませんね。


テーマ性の深さがすごい

マンガ『イノサン』では、
人の命を奪う処刑という行為を通して
人間の尊厳と自由の尊さについて
深く考えさせられるシーンが
度々登場します。

中でも私が特に印象深かったのが
2巻に登場したダミアンという貧しい農夫に
まつわる一連のストーリーです。

朴訥で純真なダミアンですが、
息子のジャックが貧困による栄養失調から
壊血病感染症の末期症状に至り、
シャルルからはもう手遅れだと診断され、
さらに、診察料を取りに戻った故郷の村では
わずかな財産までも徴税人に没収され、
母の形見のドレスまで奪われてしまうなど
踏んだり蹴ったりのどん底に突き落とされます。

そんな最中、貴族たちが暮らす豪華な
ベルサイユを目の当たりにしたダミアンは、
自分が直面している過酷な現実との
落差を見せつけられて、
この世の不平等に強烈な疑問を抱き、
ある行動を起こします。

それは、国王ルイ15世の暗殺未遂

結果的に暗殺は失敗に終わったものの
これによりダミアンは捕らえられ、
国王、つまり国家に対する
反逆罪を犯した国賊として、
当時としても異例の八つ裂きの刑
処刑されることとなります。

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(引用元:「イノサン」3巻 坂本眞一/集英社

八つ裂きの刑とは、
ロープで四肢を縛った罪人を
馬によってそれぞれ別方向に引っ張り、
体をバラバラに引き裂く残酷極まる処刑法のこと。
イノサンでは、その馬車裂きによって
ダミアンが殺害される様子が
ほぼ丸一巻分かけてじっくりと描かれています。

しかし私が心底感心したのは、
これだけむごいシーンを
写実的なタッチで生々しく描きながらも、
そこに嫌らしさや悪趣味さではなく
救いや気高さが感じられた点です。

ダミアンは、処刑の残酷さが
人々に伝わることで未来のフランス社会が
変わるきっかけになる
と信じ、
シャルルは処刑人として、
罪人の最後の苦しみを
取り除く
ことに最善を尽くす。

殺される立場のダミアンが、
殺す立場のシャルルに感謝するという
一見矛盾した展開を、あれほど違和感なく
描き切った作品は少なくとも
私が知る限り他にありませんでした。

また、このダミアン編は
手柄を立てたい叔父ニコラの策謀や
処刑人に憧れるマリー
意外な行動など、
シャルル以外の動向も興味深く、
その点でも見応えのある章でしたね。


独創的な描写がすごい

イノサンには、その高い画力を生かした
独創的な描写
色々と盛り込まれています。

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(引用元:「イノサン」7巻 坂本眞一/集英社

人間の首を切断する描写を
野菜に置き換えたり…

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(引用元:「イノサン」7巻 坂本眞一/集英社

こんなメルヘンチックなカットが
あるかと思えば…

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(引用元:「イノサン」7巻 坂本眞一/集英社

突然ミュージカル風(?)の演出に移行したり…

こうした斬新な表現の数々は、
まるでマンガという媒体の
可能性に挑んでいる
かのようで、
最初こそちょっとビックリしますが
読むたびこれが作品の
味となっていることに気づきます。

単に絵やストーリーが上手だけでなく
表現の面から大胆な捻りを入れてくる
冒険心もまた、イノサン
大きな魅力の一つでしょう。


イノサン』のここが残念!?

ここまで『イノサン』について
べた褒めしてきましたが、
ただひとつ不満点というか、
読んでいて多少
引っかかった部分がありました。

それは、気弱で心優しく
純粋さが魅力だったシャルルが
六巻を過ぎたあたりから突然、
自信たっぷりで物分かりのいい大人に
豹変してしまったこと
です。

ジャンヌと出会い童貞を捨てたことと、
父の部屋で父の苦悩を知ったことが
シャルルの変化のきっかけとして
描かれてはいるのですが、あそこまで
急激な変化の理由としては少し弱く、
展開としてやや強引さを感じてしまった
というのが正直なところでした。

これもキャラクターの成長と
言ってしまえばそれまでですが、
初期シャルルが思い悩む姿に
共感していた身としては
少し寂しいというか、
残念な気持ちがありました。

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(引用元:「イノサン」9巻 坂本眞一/集英社

また、9巻にはアランという
マリーの初恋の青年が登場するのですが、
そのような重要なポジションでありながら
ほとんど伏線なしでいきなり登場した上に
かなりあっさり退場してしまったため、
読んでいて少し面食らってしまいました。

アラン自体は、
理想に燃えるいいキャラだっただけに
その辺の関係性をもう少し丁寧に
描いて欲しかったという気持ちが残っています。


まとめ

イノサン』をオススメしたいのはこんな方

  • 近代フランスの歴史や風俗に興味のある方
  • ダークで耽美的なマンガがお好みの方
  • 画力が凄いマンガ作品をお探しの方
  • 重厚で読み応えあるマンガをお探しの方

イノサン』をオススメしないのはこんな方

  • グロテスクな描写や同性愛描写が苦手な方
  • サラッと軽く楽しめる漫画が読みたい方
  • 歴史物にあまり興味のない方

イノサン』は、画風も作風も
かなりアクの強い作品ですが、
ハマる人は
とことんハマるタイプの漫画です。

興味のある方はとりあえず4巻まで
読んでみてください。
きっとその重厚なメッセージ性に
心揺さぶられるはずですよ。