命がヤバくても行ってみたい。世界観が魅力的なSCP報告書6選

SCP

はじめに

例えば、中つ国やハリー・ポッターの魔法世界など
緻密な設定と豊かな想像力に裏付けられた一部の空想世界には
見るものに実際にそこに行ってみたいと思わせる
強烈な魔力が宿ることがあります。

一方で、同じく空想の産物でありながらも
現実世界をベースとしているSCP財団の世界には
上記に挙げた例のような異世界感は乏しく、
そもそも普通の人間が生き延びるには
あまりにもハードな条件が揃い過ぎているために
実際に行ってみたいと思えるのは
自殺志願者かよほど度胸のある人だけかもしれません。

ですが、多くのSCPを読んでいるとごく稀に、
時折そんなリスクを差し引いてでも
行ってみたい、体験してみたいと思わせられる
強烈な世界観を備えた報告書に遭遇する場合があります。

本日ご紹介するのは、
そのような、私が特に世界観が優れていると感じた6つの報告書です。

それは例えばからくり人形が闊歩する大正150年のデパートの話であり、
あるいは恐ろしい四人の王が君臨する退廃に満ちた異次元都市の話や、
ある秘密を秘めた巨大な桜の中に作られた最後の理想郷など
そのどれもが同じSCPという枠組みにあるとは思えないほど
独創的で、また強烈に記憶に残るであろうものばかり。

あなたもそこに行ってみたくなるかは保証しかねますが、
全てに一読の価値があることは大いに保証します。

SCP-2061-JP 「暁星屋百貨店冒険譚」


▲アール・デコ様式の建築物の一例

『神格機関となられた陛下の君臨と共に
大科学世紀が幕を開けました
この尊ひ夜明けが 永遠に沈まぬやうにと
当店は大正16年 暁星屋百貨店と名を改めました』

SCP-2061-JP - SCP財団

「袴にブーツ」的な
和と洋の適度に混ざり合った感じが
インスピレーションを刺激するのか、
大正という時代には江戸や戦国と並び
多くの創作物の題材となってきた歴史があります。

本日最初にご紹介する
SCP-2061-JP 「暁星屋百貨店冒険譚」も
そんな大正時代にフィーチャーした報告書なのですが
ここで描かれるのは大正は大正でも
大正150年という、
思わず誤字を疑ってしまうような奇妙な大正時代なのです。

事の始まりは東京都中央区銀座の
██百貨店に設置されたエレベーター内部に
全国のどの百貨店の制服とも一致しない制服を着用した
エレベーターガールのような
人型実体(以下SCP-2061-JP)が出現するという
噂話を財団がキャッチしたことでした。

この情報を得た財団はDクラスを
██百貨店派遣して調査を開始し、
そこで件のSCP-2061-JPを発見します。

SCP-2061-JPは成年モンゴロイド女性の外見を取り、意思疎通も問題なく可能ですが、有機的体組織を持たない機械であり、皮膚は弾性を持った未知の磁器素材で構成されることが確認されています。SCP-2061-JP自身へのインタビューにおいて『二十四型"秋舟"』『五十二型"梅枝"』など型番号を名乗っているほか、その出自について『東弊舎自動人形部により製造された』とする証言が記録されています。

こちらは財団による調査結果の抜粋ですが、
ここからはSCP-2061-JPが
現代の水準を超えた道の技術で
作られたものであることが読み取れます。

また『東弊』というワードからは
異常な性質を持った製品の製造、販売を行っている
要注意団体、東弊重工の存在が思い出されますが、
このアノマリーも彼らの『製品』の一つなのでしょうか。

この時点ですでに謎と興味が尽きない感じですが
しかし超技術で作られた
エレベーターガール型アンドロイドの存在は
この報告書のほんの入り口に過ぎません。

SCP-2061-JP報告書の本領は
異常が発生したエレベータに
搭乗しづけることでたどり着ける
『暁星屋百貨店』という
豪華なデパート(以下SCP-2061-JP-A)の方にこそあるのです。

SCP-2061-JP-Aは地上12階、地下2階の計14階建ての商業施設です。アール・デコ様式に則った建造物であり、店内の掲示から名称は『暁星屋百貨店』であると推測されます。

Dクラス職員を使用した探索により、SCP-2061-JP-A内には多数の来客があり、商業活動が行われていることが確認されています。店内ではSCP-2061-JPに類似した多数の人型機械が店員として勤務しており、それらを纏める上級店員の立場として人間が配置されています。また店員として勤務する人間、客として来店する人間に共通して、現在の科学の領域を逸脱した義肢、眼球などの人工臓器、強化外骨格の使用が確認されています。

SCP-2061-JP-Aの売り場の探索結果、店内の人型実体の会話、後述の資料から、これらは当該次元において義躯ギクと総称されていることが推測されます。またSCP-2061-JP-A内で流通する食品の製造年月日、書籍の奥付の出版年、薬品の使用期限、SCP-2061-JP-A内催事の開催年月日などにおける元号表記はすべて大正であり、総合案内所におけるカレンダーの日付表示からは本来15年で改元に至った大正時代が150年まで継続していることが読み取れます。

すべての探索において送り込んだ職員は大正150年に到着しており、大正151年以降の様子は未だ確認されていません。

まるで大正浪漫×サイバーパンクとでもいった具合のこの世界観。
文章からその情景を想像するだけでもワクワクしてしまいますね。

ただしどうやらこのデパート
異世界からの侵入者はおよびではないようであり、
過去に財団が派遣した2名のDクラスは
そのどちらもが最終的に
SCP-2061-JP-A内部の警備員によって取り押さえられて
そのまま行方不明となっています。

そして人的リソースの観点から
この事態を重くみた財団は
それ以降の内部調査を完全に凍結。

かくして我々の興味を引いてやまない
SCP-2061-JP-Aの真相に迫るすべは
一切立たれてしまったかのように思えました。

しかしそんなある時、
200█年2月7日に死亡した
ある児童文学作家の遺品から、
SCP-2061-JPに関連する内容が含まれる
5冊のノートが発見されます。

そこには作家の死亡から
遡ること80年ほど前の1926年に
若き日の作家が親友の鐘島という人物と共に
SCP-2061-JP-A内部を探索した記録が残されており、
自分たちで調査ができない状況にあった財団にとっては
非常に重要な資料となるものでした。

肝心の日記の内容は
全て報告書中に記載されていますが
ここでダイジェストに紹介してしまうのは
あまりに勿体無いほど良くできた内容でもありますので、
ご興味のある方はお手数ですがぜひ先頭のリンクから
公式サイトに飛んでお読み頂きたいと思います。

その上で個人的な感想としては
最後の鐘島のセリフに
思わず涙腺が緩んでしまいましたね。

ちなみにSCP-2061-JP-Aの舞台となっている
大正150年ですが、その世界観の魅力ゆえか
つい最近専用のハブまで誕生したようです。

大正150年 ハブ - SCP財団

日本支部ならではの特色あるハブとして
今後とも定期的にウォッチしていきたいですね。

SCP-2264「アラガッダの宮廷で」


▲SCP-2264が発見されたロンドン塔のマーティン・タワー

「アラガッダの大使が戻って来たのを感じます。
私は此処を離れますので、貴方がたもそうしてください。
逃げるのです ― 腐敗を逃れるのです。
いずれ貴方の領域を訪ねに行きましょう。」

SCP-2264 - SCP財団

ロンドン塔の隠し部屋に存在する、
魔術的な儀式で開く鉄扉が入り口となっている
アラガッダという不思議な都市についての報告書。

黒・白・黄・赤の四色しか存在せず、
エッシャーの絵画が具現化したような
奇天烈な内部構造を持ち、
ヴェネツィア風のマスクをかぶった無数の住人達の多くは
熱狂的な乱交に耽っているというこの都市の描写には
何ともディストピア的な魅力が感じられますが、
とりわけ私の関心を引いたのは
クル=マナスの堂守(以下 : SCP-2264-2)とアラガッタを支配する四人の君主の話でした。

SCP-2264-2は自身を外の世界からの来訪者だと語る理性的な人物であり、
鳥のような嘴付きの仮面と美しいローブを着用しています。

彼は初対面の財団職員に対しても
親切にアラガッダについての知識を教え、
財団側も彼の事を信頼に値する
貴重な情報源とみなしていました。

ちなみに私を含め一部の読者はその外見から
SCP-049とのつながりを連想してしまいましたが、
ディスカッションの著者発言によると
特にその意図は無かったそうです。

次にアラガッタを支配する四人の君主についてですが、
SCP-2264-2によれば彼らは
「苦悩の面被りし黒の君主。」
「勤勉の面被りし白の君主。」
「嫌悪の面被りし黄の君主。」
「陽気の面被りし赤の君主。」
の四人で構成されており、かつて(今も?)
アラガッダの支配権をめぐる
政治闘争を繰り返した結果
黒の君主が敗者となって
「恐るべき次元の澱みに叩き込まれた」とのこと。

加えてこの黒の君主というのが
どうやら例の吊られた王の悲劇(SCP-701)の
王その人らしく、※
SCP-701の危険性を踏まえると
この王たちの存在は人類にとって
十分な脅威であると言えるでしょう。
(※ディスカッション内著者発言を参照)

とはいえ報告書の中では
この四人の王の出番は名前だけに留まっており、
実際に財団エージェントが遭遇することはありません。

ですが、その代わりに
財団のエージェント パパドプロスが
アラガッダの大使なる存在と遭遇しており、
その際の記録がエージェント パパドプロスその人の口から語られています。

その内容をここで語るのは控えておきますが、
私の感想としては、
「大使でこのレベルなら四人の王はどれほどヤバいんだよ」といったところでしたね。

クトゥルフ的というか、
異次元的な理解を超えた恐怖を覚えました…

SCP-109-JP - 「底なし村でワルツを」

研究員S: わかりません。
正直、自分でも、あのときの自分が正気であったのかさえ、判断がつきません。
他の研究員は眠っていましたから、目撃証言も得られません。
もしかしたら、夢の中であったのかもしれません。

SCP-109-JP - SCP財団

JPには日本ならではの感性が活きた報告書が沢山ありますが、
これはその最たる例ではないでしょうか。

SCP-109-JPに指定されているのは
ミミズのような一見グロテスクな生物です。

しかし、このアノマリーがグロテスクなのは
その外見だけではありません。

SCP-109-JPには人間を含む大型の哺乳類の就寝中に
その耳の穴から侵入して延髄付近に寄生するという
想像しただけでも身の毛がよだつような性質があるのです。

さらに標的の体内に侵入したSCP-109-JPは
その後宿主の延髄から脊柱内部へ侵入し、
脳内伝達物質の分泌を操作しつつ
宿主にそれと気づかないように脊髄を消費。

およそ30日以内に
全身の神経をSCP-109-JPと入れ替えてしまいます。

しかも話はまだこれで終わりではありません。

宿主の神経を掌握したSCP-109-JPは
続いて産卵期と呼ばれる状態に移行します。

その名称から大方予測がつくかと思いますが、
この状態に入ったSCP-109-JPは
直径が0.05mmから0.15mm、長さが3cmから5cmという
黒みがかった、髪の毛の様に細長い卵を大量に排出するようになります。

排出された卵は
宿主の皮膚を貫通して体外へと露出し※1
約5日の間本物の毛の様に
根元が皮膚に埋まった城代を維持したのち
自然と皮膚から離れ地面へと落下。
(※1 この時にも宿主が痛みを感じることはありません)

そうして地面に落ちた卵から
SCP-109-JPの幼生が誕生し、
新たな宿主を求めて旅立つこととなるのです。。

以上がSCP-109-JPのライフサイクルですが、
忌憚のない意見を言わせてもらうなら
正直滅茶苦茶気持ち悪いですね。

こんなのに寄生されるくらいなら
一思いに殺してくれた方がまだマシというものです。

とはいえ、本記事の趣旨からも察せられるように
このアノマリーはただこのように
気持ち悪いだけのアノマリーではありません。

実は産卵期の後にも
更なる変化の段階があるのです。

SCP-109-JPは産卵期を終えた後も
変わらず卵を輩出し続けるのですが
一定の期間を超えると
卵がだんだんと皮膚から抜け落ちることが無くなり、
最終的に卵によって宿主の全身が埋め尽くされるに至ります。

その後全身を覆った卵は
合成ゴムのような質感と硬度にに変化。

加えて筋肉や内臓の形も変化していき、
終いにはこの地球上のどの生物群系にも見られない外見を持った、
二足歩行生物(以下 : SCP-109-JP-2F)になります。

この際興味深いのが、
元になった動物がたとえ四足歩行の動物であっても
最終的に変態するSCP-109-JP-2Fは必ず二足歩行となり、
同時に平均的な人間のそれよりも若干高い知性を獲得する点です。

つまり極端な話、そこらへんの野良猫でも
SCP-109-JPに寄生されてSCP-109-JP-2Fになれば
「私は実は元は猫だったんですにゃ
といった具合に言葉が話せるようになるという訳なんですね。

こう聞くと中には
SCP-109-JP-2Fになった動物の話を聞いてみたいと
思われる方も出てくるかもしれませんが
残念ながらそれは少々困難な事だと思われます。

なぜならSCP-109-JPとSCP-109-JP-2Fは
日本国内のある湖(以下SCP-109-JP-1)
の付近でしか生存できず、
加えてそのエリアは外部にSCP-109-JPや
その卵が流出しないように
財団による厳重な封鎖体制が敷かれているからです。

まぁ、冷静に考えて
こんな危険な代物を財団が放置しておくわけがないですよね。

ただし、私たちの場合
直接SCP-109-JPに接触することはできなくとも
<上位存在の特権で財団の書類を閲覧できるため
SCP-109-JP報告書内に記録されている
SCP-109-JP感染者へのインタビュー記録を読むことができます。

報告書中に掲載されているインタビューは二種類あり、
ひとつは最初の調査で図らずも
SCP-109-JPに寄生され、その後は
SCP-109-JP-1付近の集落で生活している
財団職員(時期は産卵期への移行前)へのインタビュー。

そしてもう一つが
 SCP-109-JP-2Fへの移行が完了した
元々はオオカミだったという
SCP-109-JP-2F-10へのインタビューです。

そしてこれらのインタビューこそが
この報告書に特別な味わい深さを与えている最大の見どころであり、
インタビューを読み終えた時、
最初はただただ気持ち悪いとしか思えなかった
 SCP-109-JPに対する見方
が大きく変化することは間違いないでしょう。

例によって結末は本家で…
となりますが、時間を割いて読むだけの
価値がある内容だと私は思います。

SCP-CN-1210「月の箱」

いま外に出れば、境内に横たわる彼女たちの姿をまだ見れるかもしれません。
ぽっかりと空いた眼窩の下には、見慣れた、あるいは見知らぬ笑みを浮かべているでしょう。
これこそが、彼女たちがこの世に残した最後の痕跡なのです。
彼女たちのことを永遠に覚え続けるか、そのまま忘れ去るかは、あなた次第です。

SCP-2061-CN - SCP財団

SCP報告書を数多く読み漁っていると、
ごく稀にページを開いた瞬間から既に
これは傑作に間違いないぞという
予感を与えてくれる報告書に出会う事がありますが、
これもそんな報告書の一つでした。

SCP-CN-1210-1は
日本国██県██神社(以下SCP-CN-1210-1)に収容されている
シラカバで作られた長方形の箱です。

この箱は少なくとも18世紀以前から存在し、
始めのうちは蒐集院によって管理されていましたが
戦後に蒐集院が財団に併合されると
このアノマリーの管理も財団側へと受け継がれました。

さて、この箱ですが、
まず例によって破壊不可です。

そして、こちらの方がより重要なのですが、
日没時になると中から不特定多数の
不定形の怪物(以下SCP-CN-1210-A)が飛び出してきます。

SCP-CN-1210-Aは非常に攻撃的であり、
偽足や触肢を用いて視界に入った人間の
身体を貫通/引き裂こうとしてきますが、
銃などの通常兵器で倒すことはおろか
捕縛することもできません。

SCP-CN-1210-Aを倒すことができるのは唯一、
執剣の巫女と呼ばれる
特別な訓練を受けた巫女たち(以下SCP-CN-1210-3)だけなのです。

SCP-CN-1210-3はSCP-CN-1210-Aの出現に先だって
毘盧遮那と呼ばれる儀式を執り行います。

儀式は主に以下の三要素から成り立ちます:
- 遊戯「かくれんぼ」を真似ながら、1つ以上の定められた複雑なルートに沿って境内を移動する。SCP-CN-1210-Aから可能な限り逃走し、執行過程における死傷者を最小限に抑えるための行動。
- 神楽「アメノウズメの舞」2を行う。この時、八咫鏡3を太陽が昇る真東に向かって配置し、神々が鏡を用いて岩戸から天照大神を誘い出し、世界に光を取り戻した伝説を再現する。太陽神要素を含んだ儀式を通して、SCP-CN-1210-Aへの攻撃能力を得るための行動。
- 日出時、1名の執行者がSCP-CN-1210-2を装着する。執行者(以降、SCP-CN-1210-3と呼称)の眼球は損傷し、完全に失明する。その後、対象の毛髪は3~5日以内に白色へと変化する。執行者の視力を犠牲に、SCP-CN-1210-Aを観察・記憶する能力を得るための行動。

ここで言及されているSCP-CN-1210-2とは
SCP-CN-1210-1何置かれている能面であり、
眼球部分にある2本の鉄くぎによって
巫女の視力を奪う役割を果たすものです。

SCP-CN-1210-3となった巫女たちは
このような過酷な体験を経て
何世代も代替わりを繰り返しながら
SCP-CN-1210-Aを退け続けることで
数百年もの間、周囲の人々を
SCP-CN-1210-Aの凶手から守り続けてきたのでした。

しかしこれほど重要な役目を背負ってきた
SCP-CN-1210-3の多くは
様々な理由から長生きできなかったようで、
報告書中に掲載されている
『補遺: SCP-CN-1210-3の交代記録』には
歴代のSCP-CN-1210-3の退任事由として
傷口感染による病死、事故死、暗殺など
様々な死因が記述されています。

ですがその中でも特に不可解なのは
何人かの巫女の退任事由が
[データ欠落]となっていることでしょう。

このことは、SCP-CN-1210-Aが持つ
ある異常性によるものです。

それは、SCP-CN-1210-Aの手によって
殺害された犠牲者は、その存在が
人間以外の動物や細菌をも含む
あらゆる他者から認識されなくなるという
一種の反ミーム付与効果とでも言うべきものであり、
SCP-CN-1210-Aによって殺されたものは
その家族からすらも存在を忘れられてしまい、
また細菌や微生物からも認識されなくなることによって
死体が腐敗して土に還ることすら無くなるのです。

例外的にSCP-CN-1210-3のみは
SCP-CN-1210-Aによって殺害された人物について
忘却することなく記憶することができるのですが、
しかし反ミームの対象となることからは逃れられず、
そのためにSCP-CN-1210-Aによって
殺害された巫女に関しては退任事由が
[データ欠落]となっていたのでした。

視力を失い、恐ろしい怪物と闘い続ける宿命を背負わされ、
もしSCP-CN-1210-Aの手にかかって殺されてしまえば
同じSCP-CN-1210-3の巫女以外からは
その存在すら忘れ去られてしまうという彼女たち。

その心情を思うと、
何とも切ない気持ちになってしまいますね。

そして、ここでは詳細は省きますが
報告書中には歴代の巫女たちが
自分の言葉で書き残した書置きが掲載されています。

そのどれもが書き手の人間性が表れたものであり、
また時代の推移によって
このアノマリーの収容を取り巻く状況が
どのように変化していったのかを読み取ることもできます。

総じて非常に興味深い内容となっていますので、
こちらも是非本家ページの方でお確かめください。

以上で本報告書の概説を終わりますが
最後に多くの方が気になっていたであろう点に
触れて終わりにしようと思います。

それは、この報告書が
終始日本的な要素の濃い内容であるのに
報告書ナンバーがCN、つまり
中国支部のものとなっていることです。

その理由は、こちらが元々
自分の国とは異なる国のGOIをテーマに書く
インターナショナルGOIコンテストの参加作品であり、
またその優勝作品でもあったという点にあります。

つまり、この報告書は中国支部の方が
(その人にとっての外国支部である)日本支部の
要注意団体である蒐集院を題材に選んで
書いた報告書だったという事。
(当然、元の報告書も中国語で書かれています。)

もっとも、そうした背景を含めても
日本に対する理解のレベルが半端なく、
前知識なしにこれを読んでから
実は中国の人が書いたのだと聞かされても
まずほとんどの人は信じられないでしょうね。

SCP-1857-JP「常盤の桜」

我等の使命は数える程にまで減ってしまった。
人類にこれ以上の繁栄はもはや約束される事は無く、残るは衰退の道に他ならないだろう。
しかし、如何に多くが滅ぼうと、人類は守られなければならない。
たとえ、この事態の元凶に縋ろうとも

SCP-1857-JP - SCP財団

この頃は気温もずいぶん暖かくなり、
近所の川辺では満開の桜が訪れる人の目を楽しませてくれています。

続いてご紹介するSCP-1857-JPもまた
一本の桜の木ではあるのですが、
そのオブジェクトクラスはなんとApollyon。

財団にすら一切打つ手がなく、
収容不可能を意味するあのApollyonです。

では、なぜこのアノマリーが
Apollyonに指定されたかといえば、
それはこれが持つ「周辺1.6km圏外の環境からの熱吸収能力」と
際限なく加速を続ける「成長性」、
そしてあらゆる破壊に対して即座に再生することによる
疑似的な「破壊耐性」をその要因としています。

特に最初の「熱吸収能力」というのが厄介で、
太陽放射による熱や大気熱、
地熱や生物の熱エネルギー、化石燃料の燃焼など
この地球上に存在するあらゆる熱がその対象となり、
その成長スピードが増加し続けていることを踏まえると
このアノマリーによって遅くとも数十年のうちに
地球がもはや人間の棲むことのできない
氷の惑星に変貌してしまう事が予想されているのです。

どっこいこいつはApollyon。

だからといってもはやどうすることもできないという絶望感。

もちろんこの事態に対して
財団がただ指をくわえて手をこまねいていたわけではなく、
プロトコル・イザヴェルとプロトコル・ギムレーという
二つのプロトコルを発動してはいたのですが、
それらも基本的には一時しのぎに過ぎないものでした。

まずプロトコル・イザヴェルは
一部の職員を並行世界に退避させ、
その間に有効な対策が生み出されることに賭ける作戦です。

ただしこれは基底現実への帰還に100年以上かかり、
その間にもSCP-1857-JPの成長は加速し続けることから
仮に帰還したとしても
地球を人類の生存可能な環境にまで修復する事は
不可能であると見なされています。

次にプロトコル・ギムレーですが、
これは常に一定の温度が保たれている
SCP-1857-JP-1の内部に共住空間を作成し、
その中に選りすぐった人員を住まわせることで
少しでも時間を稼ごうというものです。

こちらは帰還のラグが無いためまだ多少は現実的ですが
それでもこのプロトコルが発令した時点で
地球上の生存圏はSCP-1857-JP-1の
周囲100km程度まで絞られてしまっているわけで、
果たしてそんな狭いエリアに暮らせる程度の人数で
この状況を覆せるのかという点については甚だ疑問が残ります。

そのようなわけで
この報告書の中で財団=人類は
じりじりと追い詰められ続けていくのですが、
地球上の生存圏がとうとう直径3.1kmまで狭まった2033年の
さらに5年後の2038年に書かれた
プロトコル・ギムレーに参加者のある職員の文章は
そのような絶望感とは真逆の、意外にも
穏やかな心情が伝わってくるものとなっています。

しかし何故だろうか、私はこの箱庭の様な世界を嫌いになる事は出来なかった。
ここは私が見てきた何よりも美しかった。見上げるほどに大きなSCP-1857-JPは太陽と月の明かりに照らされ、花びらがひらりひらりと舞い落ち、空は澄み、水は清く、人々は人種を超えて争う事もなく生を謳歌している。

これは、もともと精神安定性の高い職員が選ばれていることや
何らかの精神安定薬の影響もあるかもしれませんが、
常に桜が咲き誇り、永遠に終わらない春のような
SCP-1857-JP内部の光景がそうさせていた部分もあったのかもしれません。

殆どの地表が凍り付き、
生命が死に絶えた地球で
その元凶のはずの桜の樹が
一方で生命の小さな楽園にもなっている。

生と死のこの鮮やかなコントラストは
古来より咲いたと思ったらすぐに散ってしまうその儚さから
生と死の象徴ともされてきた桜の樹のイメージと完璧に符合し、
読み手に強烈な印象を与えることに成功していました。

住みたいか、と問われたらNoと答えますが、
しかし外から見る限りでは
こんなに美しい世界はないかもしれませんね。

SCP-5005「燈火」


▲エーテリウム地区で見られる"燃焼"灯の一つ。ナトリウムランプに類似した視覚効果を齎すものの、主流テクノロジーではなく魔術によって機能する。

君のような人間を既に見てきたからだ。何百回とな。
剣さながらに絵筆の上に倒れ込む芸術家達。
一粒の暗闇に神を見出す物書き達。
時折止めに入るのだが、大抵は無視される。若輩の知恵とやらを理由にな。
何てことの無い日に彼らは夜闇に向かって歩いていき、積み重なった謎で出来上がった空洞に入り込んでいく。
私達がそれに逆らう灯台として、人類にとって必然である夜半の拒絶の追求として、それを作ったことを知らないまま。

SCP-5005 - SCP財団

一つの完成された世界観の表現という意味において
この報告書の右に出るものはないでしょう。

ただしとても難解で芸術的な内容であり、
先に断っておくと私もその全てを
正しく理解できているという自信は無かったりします。

その上でまず大前提として、
この報告書の時間軸は2524年の未来であり、
この時代においては次元の壁を越えた
異なる宇宙同士の交流が成立しています。

そしてSCP-5005に指定されているのが
2109年にドラクロワという一人の詩人が
「堕ちた者達、拠り所を失った者達、難民、迷い人の為の住処」
を産み出す目的で非現実界の中に創設した
「燈火(Lamplight)」と呼ばれる居住区です。

この居住区にはその後様々な過程を経て
芸術家や右中間の難民など
多種多様な人々が移り住むようになりました。

SCP-5005の住民たちはいくつかの
個性的なコミュニティを形成していますが、
創設者の影響か、全体的に厭世的な
芸術家肌の人間の割合が大きいようです。

またSCP-5005に関する
もう一つの特筆すべき点として、
その上空にぶら下がっている
巨大な灯籠(以下SCP-5005-1)の存在があります。

この灯籠の役割について説明するには、
まず冒頭で名称だけ出てきた
「非物質界」についてご説明しておく必要があります。

非物質界とは物質が存在できる領域の
さらに外側の領域を指す言葉であり、
私たちの肉体を含むあらゆる物質は
通常であればその領域に踏み込んだ時点で
形を失い崩れ去ってしまいます。

ですがSCP-5005-1の光にはそれに対抗できる
強力な現実安定化作用が備わっており、
そのためSCP-5005とその住人は
非物質界の中においても形を保ったまま
存在し続けることが可能となっているのです。
(町の創設者のドラクロワも
当初は自殺する目的で非物質界に足を踏み入れたのですが、
そこで偶然SCP-5005-1を発見したことで翻意し、
代わりにそこに理想の町を創り出すことを決意した経緯がありました。)

つまりSCP-5005は果てしなく広がる
非物質界に浮かぶ孤島の様なものであり、
例えるなら真っ暗な大海原にポツンと浮かぶ
明かりのついた小さな船といったところでしょうか。

本当は他にも色々な特徴があるのですが
SCP-5005の大まかな骨子としては以上です。

そしてこの魅力的な設定の元で進行するのが
財団のソフィア・ラミレス次席研究員(♀)による
SCP-5005の調査記録です。

実は財団はソフィア以前にも
二名の研究者を派遣していたのですが、
そのどちらもがなぜか調査開始からしばらくして
SCP-5005-1の光の届かない領域に出ることによる
実質的な自死を遂げており、
今回のソフィアの任務の目的にはその解明も含まれていました。

果たしてソフィアはこの町に潜む
闇にとらわれることなく任務を遂行できるのか、
そしてなぜこの町に住んだ人間は
非物質界へと誘われてしまうのか…

その最大の謎が明かされるラストは
一見抽象的であり、
評価は読む人によって大きく分かれそうですが、
果たしてあなたはそこに
どのような意味を見出すことができるでしょうか。

おわりに

以上、世界観が魅力的な報告書特集でした。
あなたが魅力的だと思える世界はありましたでしょうか。

個人的には暁星屋百貨店で
『電氣式ソオダ』を頂いてみたいですね。

それでは、またの機会に。

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