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水のようにしなやかに生きる。人生に迷ったときに読みたい老子の名言15選


はじめに

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あなたは、道教の始祖
老子をご存じでしょうか?

老子
儒教の祖、孔子と双璧をなす
中国の春秋戦国時代の思想家であり、
その無為自然の思想はのちの
禅や風水、陰陽道などの原型となって
日本を含む東アジア全域の文化、
歴史に多大な影響を与え続けてきました。

そして本日は
そんな老子の言葉の中でも、
特にその本質を表している15の名言を
『原文』『書き下し文』
『通訳文』『解説』
の4点セットで、
中学生でもわかるくらい
簡潔にご紹介させて頂きます。

それでは、どうぞ。


老子の名言集

知人者智、自知者明。
勝人者有力、自勝者強。
(出典:老子 三十三章)

書き下し文

人を知るものは智なり、自らを知るものは明なり。
人に勝つ者は力有り、自ら勝つものは強し

通訳

他人の事を良く知ってる人は智者であるが、
自分のことを知っている人は賢者である。
人に勝つものは力があるが、
自分に勝つものは真の強者である。

解説

春秋時代の戦術家孫武
「彼を知り己を知れば
百戦殆からず」
と説き、
ギリシアアポロン神殿には
「汝自身を知れ」という言葉が
刻まれているそうですが、
老子もそれらと同様の
教えを説いています。

誰しも自分のことは
自分が一番よく知っていると
思いがちですが、生きていると
他人から、今まで気づかなかった
自分の良いところや悪いところを
教えてもらう機会が沢山あります。

そして後半の
自分に勝つという教えもまた、
ぜ心に留めておきたい名言でしょう。

古代ギリシアの哲学者プラトン
『自分に打ち勝つことが、
最も偉大な勝利である』

という似た名言を残していますが、
誰しも、自分に打ち勝つことほど
難しいことは無いと言うことですね。


知足者富、強行者有志、
不失其所者久、死而不亡者壽
(出典:老子 三十三章)

書き下し文

足るを知る者は富む。
強(つと)めて行なう者は志有り。
其(そ)の所を失わざる者は久し。
死して而(しか)も亡びざる者は
壽(いのちなが)し。

通訳

自分にとって何が充分かを知る人は
豊かになり、努力を続ける人は志を果たし、
自分の立ち位置を見失わない人は長続きする。

「道」の道理に従って
肉体的な死に囚われない人は、
本当の意味で
長生きすることができるだろう。

解説

ひとつ前の文章の
続きにあたる一節です。

「足るを知る」のフレーズは
今も広く使われている言い回しですね。

最後の一文「死して而も亡びざる者は
壽(いのちなが)し」がやや難解ですが、
ここでは、死を自然の一部として
自然に受け入れられる人は、
死に囚われる事もない
と解釈しました。



曲則全、枉則直。
窪則盈、敝則新、少則得、多則惑。
(出典:老子 二十三章)


書き下し文

曲がれば則(すなわ)ち全(まった)し。
枉(かが)まれば則ち直(なお)し。
窪(くぼ)めば則ち盈(み)つ。
弊(やぶ)るれば則ち新たなり。
少なければ則ち得、
多ければ則ち惑う

通訳

曲がった木は役に立たないから
伐り倒されずに天寿を全うできる。
尺取り虫は体を曲げるから
まっすぐ進むことができる。
地面が窪んでいれば
そこに水を貯めることもできる。

このように世の中には、
足りないことで得をすることも、
逆に多過ぎるから迷って
損をしてしまうこともあるんだよ。

解説

老子には「無用の用」、
柔よく剛を制す」などの
逆転の発想が度々登場します。

水を貯めるにはまず
何もない空間を用意しなくてはならず、
高くジャンプするには
一旦低く屈まなければならない。

欠点も見方を変えれば長所になるし、
ある場所で悪とされるものが
別の場所では善とされる事もある。
こうした老子の思想には、
一つの視点に固執しない
柔軟さ寛容さが感じられます。


我有三寶、持而保之。
一曰、慈。二曰、儉。三曰、不敢爲天下先。
慈故能勇、儉故能廣、不敢爲天下先、故能成器長。
今舎慈且勇、舎儉且廣、舎後且先、死矣。
夫慈、以戰則勝、以守則固。天將救之、以慈衞之。
(出典:老子 六十七章)

書き下し文

我に三宝(さんぽう)あり、
持(じ)してこれを保(たも)つ。
一に曰わく慈(じ)。二に曰わく倹(けん)、
三に曰わく敢えて天下の先に為らず。
慈なるが故に能(よ)く勇(ゆう)、
倹なるが故に能く広く、
敢えて天下の先と為らざるが故に
能く器(うつわ)の長(ちょう)を為す。

通訳

私には大切に続けている
三つの宝がある。
一つは慈しみ、二つは倹約、
三つ目はむやみ出しゃばって
目立とうとしない謙虚さだ。

慈しみがあるからこそ勇敢になれ、
倹約しているからこそ人に施せ、
でしゃばらないからこそ
大きな器になれるのだ。

解説

仏教の仏法僧の三法の
原典にもなったこちらの名言。

一つ目のは、
他者を慈しむ心のこと。
孔子の説いた仁や
キリスト教の愛の概念に
通じるものも感じられます。

二つ目の
まさに「足るを知る」であり、
仏教にも通じる考え方です。

そして三つ目は
無理に人の先頭に立とうとするな、
という謙虚さを説いています。

これには、周囲の賛同がなく
実力も伴っていないものが
自然の摂理に逆らって
無理にリーダーになろうとしても
必ず失敗するぞという
戒めの意味も含まれています。


太上下知有之。其次親而譽之。
其次畏之。其次侮之。信不足、焉有不信。
悠兮其貴言、功成事遂、百姓皆謂我自然。
(出典:老子 十七章)

書き下し文

太上(たいじょう)は
下(しも)これ有るを知るのみ。
その次は親しみてこれを譽(ほ)む。
その次はこれを畏(おそ)る。
その次はこれを侮る。
信足らざれば、
焉(すなわ)ち信ざられざること有り。
悠としてそれ言を貴(おも)くすれば、
功は成り事は遂(と)げられて、
百姓(ひゃくせい)は
皆我自ら然(な)りと謂(い)う。

通訳

最も優れた君主というのは
民衆からその存在を知られるだけで
実際に何をしているのかは
分からないくらいで丁度良い。

その次に良いのは
部下から慕われる君主であり、
それより劣るのは
部下から恐れられる君主であり、
そして最悪なのは部下から
バカにされるような君主だ。

もし君主が誠実さを欠いて
余計なことをするならば、
民衆からの信頼を失うことだろう。

だから理想的な君主というのは
自分からは滅多に口出しをせず、
民衆が自分たちの力で
事を成し遂げたと思えるように
うまく仕向けるものなんだよ。

解説

今では世界中で
広く親しまれている老子も、
本来はそれが成立した
春秋戦国時代に読み書きが
できる程度の教養を持った人々…
つまりは君主王族のような
立場にある人々に
読まれることを想定して
書かれた書物でした。

そしてこの
「太上下知有之〜」の下りでは
老子流の君主論が展開されています。

最高のリーダーというと、
一般的には部下(民衆)を
引っ張るカリスマ性があり、
的確な指示をビシバシ出すような
リーダーを想像しがちです。

しかし老子はそうではなく、
普段は空気のような存在でいて
実際に事を行う際は
部下(民衆)の自主性に
任せられるようなリーダーこそ
真に最良であると説いています。

確かにどれだけ
リーダーが優秀であっても、
部下に任せることができなければ
組織全体の自主性が育たず、
結果としてリーダーが
いなくなった途端に総崩れになるような
脆弱な組織になってしまいかねません。

これは、人の上に立つ経営者や
政治家の方こそ心に留めておきたい
名言ではないでしょうか。


功遂身退、天之道。
(出典:老子 九章)

書き下し文

功遂げて身の退くは、
天の道なり。

通訳

功績を成し遂げたら
身を引くのが天の道というものだ。

解説

歴史を振り返れば、
偉業を成し遂げ
英雄と呼ばれた人が、
その後権力の座について
晩節を汚した例は
枚挙に暇がありません。
(スターリン然り、毛沢東然り…)

引き際は潔く、
過去の成功にいつまでも
しがみつかないことが、
よく生きるために
大切なことなんですね。


上善若水
水善利萬物而不爭、處衆人之所惡。
故幾於道。居善地、心善淵、與善仁、
言善信、正善治、事善能、動善時。
夫唯不爭、故無尤。
(出典:老子 八章)

書き下し文

上善(じょうぜん)は水の若(ごと)し。
水は善(よ)く万物を利して而(しか)も争わず、
衆人(しゅうじん)の悪(にく)む所に処(お)る。
故(ゆえ)に道に幾(ちか)し。

居(きょ)には地が善く、
心には淵(えん)が善く、
与(まじわり)には仁が善く、
言には信が善く、
正には治が善く、
事には能が善く、動には時が善し。
それ唯(た)だ争わず、
故に尤(とが)め無し。

通訳

最高の善は水のようなものだ。

水はあらゆるものに
利益を与えながら誰とも争わず、
人が嫌がる低いところに進んで集まる。
だから最も道に近い。

住む場所は地面の近くが良く、
心は奥深いのが良く、
人間関係は情が厚いのが良く、
発言は信頼があるのが良く、
良い政治で治め、事業は能率が良く、
そして行動は適切な時期に行う。

水のように争わずに生きていれば
誰からも咎められる事はないのだ。

解説

上善如水の四字熟語としても
良く知られているこの言葉。

私などはこれを読むと、
かつてブルース・リーが語った
Be water my friend(友よ、
水のようになれ)という
名言が思い出されます。

ストレスが多く
複雑さを極める現代社会こそ、
このように柔軟な「水の思想」が
必要とされるのではないでしょうか。


道常無爲、而無不爲。
(出典:老子 三十七章)

書き下し文

道は常に無為にして、而(しか)も為さざるは無し。


通訳

「道」には自ら
何かしようとする意思はないが、
「道」によって
成し遂げられないことはない。

解説

『道(タオ)』は、
老子思想のキーとなる言葉です。

道には本来
名前をつけることができず、
誰もその姿を見ることも
音を聴くこともできません。

それでもあえて何かに例えるならば、
道とはあらゆる生き物を支配している
自然のルールのようなもの
です。

老子は小賢しい人間の知恵を捨て、
この道にしたがうことこそが
人間本来の幸せ(=無為自然)に
繋がるのだと説きました。


道沖、而用之或不盈。
淵兮似萬物之宗。
挫其鋭、解其紛、和其光、同其塵。
(出典:老子 十七章)

書き下し文

道は冲(むな)しきも、
これを用うれば或(ま)た盈(み)たず。
淵として万物の宗(そう)たるに似たり。
其の鋭(えい)を挫(くじ)いて、
其の粉(ふん)を解き、
其の光を和(やわら)げて、
其の塵(じん)に同(どう)ず。
(四章)

通訳

「道」は一見、空の器のように
感じられるかもしれないが、
実はそこに何をいれても
一杯になることがないほど深く、
それはまるで万物の
根源のような働きを持っている。

「道」は万物の鋭さをなくし、
万物のもつれを解きほぐし、
万物の光(輝き)を和らげて
何でもないような塵と同化する。

解説

老子が「道」のはたらきについて
説明した一文です。

より簡潔に言い変えると、
道にはあらゆる物事の
突出した部分を抑えて、
中庸により戻す働きがある
といったところでしょうか。

ちなみに仏教の禅語には
自分の才能を隠して
世俗に混じって目立たないように
暮らす事を指す和光同塵(わこうどうじん)
という言葉がありますが、
その原典となったのが
こちらの老子の言葉です。


知不知上、不知知病。
夫唯病病、是以不病。
(出典:老子 七十一章)

書き下し文

知りて知らずとするは上、
知らずして知るとするは病(へい)なり。

通訳

知っていてもまだ知らないという
謙虚な気持ちがある人は良いが、
知らないのに知っていると
嘯くような人はもはや病気だ。

解説

論語には『知るを知ると為し、
知らざるを知らざると為す、
是れ知るなり』
という言葉がありますが
老子の場合は、知っていてもなお
知らないという謙虚な心が
一番大事だと説いています。

スポーツでも芸術でも、
一流の人ほど自分はまだまだという
謙虚な気持ちを忘れないと聞きます。
私たちも、ぜひそう有りたいものですね。


天之道、不爭而善勝、
不言而善應、不召而自來、繟然而善謀。
天網恢恢、疏而不失。
(出典:老子 七十三章)

書き下し文

天の道は、
争わずして善く勝ち、
言わずして善く応じ、
召かずして自ら来たし、
繟然(せんぜん)として善く謀る。
天網恢々(てんもうかいかい)、疏(そ)にして失せず

通訳

自然の摂理というのは
争う事もなしに良く治り、
頼まれなくてもきちんと対処し、
無計画なようで計画的だ。

「道」というものは
大きな天網のようなもので、
目は粗いが何一つ
取り漏らさないものなんだよ。

解説

天網恢恢疎にして漏らさず」は
非常に有名なフレーズですが、
これがその原典となった老子の言葉です。

また、この章には、
人を法律やルールで威圧し
がんじがらめにする、
いわゆる法家思想に対する
老子の批判的な姿勢も
汲み取ることができます。


將欲歙之、必固張之。
將欲弱之、必固強之。將欲廢之、必固興之。
將欲奪之、必固與之。是謂微明。
柔弱勝剛強。
魚不可脱於淵、國之利器、不可以示人。(三十六章)

書き下し文

将(まさ)にこれを歙(ちぢ)めんと欲すれば、
必ず固(しばら)くこれを張れ。
将にこれを弱めんと欲すれば、
必ず固くこれを強くせよ。

将にこれを廃(はい)せんと欲すれば、
必ず固くこれを興せ。
将にこれを奪わんと欲すれば、
必ず固くこれに与えよ。
これを微明(びめい)と謂(い)う。

柔弱(じゅうじゃく)は
剛強(ごうきょう)に勝つ。
魚は淵(ふち)より脱すべからず。
国の利器(りき)は、
以(も)って人に示すべからず。

通訳

あるものを縮めようと思うなら
それを拡張するように仕向けなさい。
あるものを弱くさせたいと思うなら
それが強くなるように仕向けなさい。

あるものを廃れさせたいのならば
それが繁栄するように仕向けなさい。
あるものから奪いたいと思うなら
それに与えることから始めなさい。
これこそが微妙な叡智と呼ばれるものだ。

柔らかいものは固いものに勝つ。
魚は深い水底にいてこそ安全だ。
このような国を治める上で
重要な知恵は簡単に
人に明かしてはいけないよ。

解説

相手を弱くしたければ強くしろ、
廃れさせたかったら流行らせろ、という
一見矛盾した命題が並んでいます。

しかし、強大になりすぎた国家が
世継ぎ争いや政治腐敗で自滅したり、
コアな領域で流行っていたカルチャーが
マスコミなどに取り上げられて
メジャーになった途端、急速に
ブームが萎んでいったりするように、
良いことも過ぎれば時に毒となります

老子は、そうした
自然の摂理(=道)を戦略として
うまく利用しなさいと
説いているのではないでしょうか。

ちなみに、
「柔弱勝剛強」の一節を読んで
ピンときたかもしれませんが、
古代中国の兵法書三略」には
柔よく剛を制す」という
本章の一説に酷似した
格言が登場しています。


善行無轍迹
(出典:老子 二十七章)

書き下し文

善く行くものは轍迹(てっせき)なし。

通訳

優れた生き方をするものは
その足跡を残さないものだ。

解説

誰しも、信長やナポレオンのような
歴史に名を残す生き方に、
一度は憧れてしまうものですが、
老子は、本当に立派な人の足跡は
歴史に残らないものだ
と語ります。

「道」をわきまえて
立派な仕事を成し遂げる人は
それを無闇に誇ったりしない、
ということかもしれませんね。


名與身孰親。身與貨孰多。
得與亡孰病。是故甚愛必大費。
多藏必厚亡。
知足不辱、知止不殆、可以長久。
(出典:老子 四十四章)

書き下し文

名と身と孰(いず)れか親しき、
身と貨と孰れか多(まさ)れる。
得ると亡(うしな)うと
孰れか病(うれい)ある。

この故(ゆえ)に甚(はなは)だ愛(おし)めば
必ず大いに費(つい)え、
多く蔵(ぞう)すれば必ず厚く亡う。

足るを知れば辱(はずかし)められず、
止まるを知れば殆(あや)うからず。
以て長久(ちょうきゅう)なるべし。

通訳

名誉と自分の身とでは
どちらが大事だろうか。
あるいは自分の身と財産とでは
どちらが大切だろうか。
ものを得るのと失うのとでは
どちらががいがあるだろうか。

名誉を重んじれば
必ず浪費しなければならず、
多く貯め込めばそれだけ
損失を出すことになる。

名誉や財産に執着しなければ
屈辱を受けるような目に遭うこともないし、
ほどほどを心得ていれば
危険に陥るようなこともない。

このように、
心安らかに暮らす方が良いだろう。

解説

三十三章で登場した
足るを知る」がここでも
再登場しています。

ただ、こちらは
足るを知らないことによる
弊害の例が挙げられており、
より読むものの危機感を
煽るような内容となっています。

まず、名誉(名)に
執着すれば散財するという点。
これは現代風に言うと、
見栄を張ってローンで
身の丈に合わない家や服や車を買い、
それで自分の首を締めるような人が
当てはまるでしょうか。

次に、財産を貯め込めば
かえって損失が大きくなるという点。
こちらは、財産が増えるほど
それを守るための費用がかかり、
さらに盗まれたり、資産の価値が
暴落しないかといった心労が
付きまとうことなどを
指していると思われます。

gendai.ismedia.jp

また、経済学の研究によると
収益による幸福度の増加は
およそ900万円程度がピークで、
それを超えるとむしろ
幸福度が減少してしまうそうです。

お金持ちになりたい!というのは
全人類共通の願いだと思いますが、
なにごとも
過ぎたるはなお及ばざるが如し
なのかもしれませんね。


明道若眛、進道若退、夷道若纇。
上徳若谷、大白若辱、廣徳若不足、
建徳若偸。質眞若渝。

大方無隅、大器免成、
大音希聲、大象無形

道隱無名。夫唯道、善貸且成。
(出典:老子 四十一章章)

書き下し文

明道は昧(くら)きが若く、
進道は退くが若く、
夷道は纇(らい)なるが若し。

上徳は谷の若く、
広徳は足らざるが若く、
建徳は偸(おこた)るが若し。

質真はかわるが若く、
大白は辱(じょく)なるが若く、
大方は隅無し。

大器は晩成し、
大音は希声(かす)かに、大象は形無しと。

通訳

本当に賢い人は一見愚か者に見え、
前に進む道は一見後戻りするように見え、
平らで安全な道は一見遠回に見える。

最高の徳は低い谷のように見え、
真に広大な徳は物足らないように見え、
確かな徳のある人は怠けているように見える。

純粋なものほど変わりやすいように見え、
真に潔白なものは汚れて見え、
この上なく大きな四角は
角を持たないように見える。

本当に偉大な人は大成するのが遅く、
この上なく大きな音はかえって聴こえ辛く、
この上なく大きな形はかえって目に見え辛い。

解説

有名な四字熟語
大器晩成」「大象無形」の
元にもなったこの一節。

逆説的な命題がずらずら並び、
一見理解の難しい内容ですが、
それらは押し並べて
目に見えることと本質のずれを
示しているように思えます。

遠回りこそが近道であり、
愚かに思われている人の中にこそ
本当の賢さがある。

世の中にはびこる偏った常識や
右習えの価値観に一石を投じる、
懐の深い名言ですね。


信言不美、美言不信。
善者不辯、辯者不善。
知者不博、博者不知。聖人不積。
既以爲人己愈有、既以與人己愈多。
天之道利而不害、聖人之道爲而不爭。
(出典:老子 八十一章)

書き下し文

信言(しんげん)は美ならず、
美言(びげん)は信ならず。
善なる者は弁(べん)ぜず、
弁ずる者は善ならず。
知る者は博(ひろ)からず、
博き者は知らず。

聖人は積まず。
既(ことごと)く以(も)って
人の為にして己(おのれ)
愈々(いよいよ)有し、
既く以って人に与えて己愈々多し。
天の道は利して而(しか)して害せず、
聖人の道は為(な)して而して争わず。

通訳

信じるに足る言葉は飾り気が無く、
耳障りの良い言葉は信じるに足りない。

善人ほど多くを語らないもので、
多くを語るものは善人とは言えない。

本当に知恵のあるものは物知りではなく、
物知りな人は本当の智者ではない。

聖人は私財を肥やさず、
他者の為に行動することで
ますます自らを充実させ、
他者に何もかも与えて
自らの心は豊かになる。

天は万物に利益を与えて
しかも害をなすことはなく、
聖人は他者と争うことなしに
大きなことをやり遂げる。

解説

この章は老子
最後の章としても有名です。

老子は、おしゃべり好きや
所謂物知りな人は聖人から遠く、
また聖人は私利私欲が無く、
他者と争うことなく
物事を成し遂げるのだと語ります。

この言葉を読んで
我が身を振り返ってみると、
おしゃべり好きで、
知識を溜め込むことが好きで、
お金儲けも人並みに好きで、
時に人と喧嘩もしてしまう
私のような人間は、
まだまだ聖人からは
程遠いのだなぁと痛感させられます。

私含む凡庸な人間がこうした
老子の聖人像にいきなり従うことは
難しいかもしれませんが、
もし少しでもその境地に近づきたいなら
まずは「他者を思いやる」という
簡単なことから
初めてみるのが近道かと思います。


さいごに

持てるものと持たざる者の
貧富の差が無制限に拡大し、
個人を取り巻く情勢が
ますますシビアに
なりつつある昨今において、
目先の利益にとらわれず、
より大きな視点から
物事の本質を見る老子の思想は、
今後ますますその重要性を
高めていくものと予想されます。

もし本記事で
老子の思想に興味を持たれたならば、
まずは以下の入門書を読み、
それから岩波などで原文にあたって
その言わんとするところを
自ら探って見ることをおすすめします。

[新訳]老子

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老子 (岩波文庫)

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それでは、
最後までお付き合い頂き
誠にありがとうございました。