哲学的に難解。SCP-4517「それほどNじゃない」のネタバレ解説

SCP
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主観的な説明を許さないSCiP

こんにちは、
在野のSCP愛好家daimaです。

今回解説するSCPは
本家で295票のup voteを獲得し
2019年4月に最も高い評価を受けたSCPの栄誉に輝いた
SCP-4517(それほどN※じゃない)です。
(※報告書で用いられているのは数学記号の「」ですが
これは機種依存文字であるため
当記事内では大文字のNで代用しています。)

このSCPは
情報量こそ多くないのですが
哲学的というか認識論的というか
与えられた情報をパズルのように
組み合わせて考えないと
その裏に隠された真相に気づけない
少々手強い内容となっています。

当記事はそんなSCP-4517について
本家ディスカッションや
redditでの考察を参考に、
私自身の推察も含めた
ネタバレ解説を行ってみようと思います。

それでは早速、報告書に
目を通していきましょう。

SCP-4517(それほどNじゃない)の概要

SCP-4517が発見された浴槽の写真

収容手順と概要

アイテム番号: SCP-4517

収容レベル: Safe

SCPの報告書は
まず最初にアイテム番号と
オブジェクトクラスを明記する決まりですが、
今回はオブジェクトクラスの箇所がなぜか
「収容レベル」という別の表現に変わっています。

ちなみに英語版の本家記事でも
同様にObject Classではなく
Containment Levelという言葉が使われているので
これは表記ミスではなく
後述するSCP-4517固有の性質に関係する
意図的な置き換えでしょう。

特別収容プロトコル:
SCP-4517を内包する
アパートの一室は財団によって買収され、
強化された扉および窓、
そして内部監視機器が設置されました。
アパートの他の部屋の住人は
Gクラス監視対象と見做されます。
将来的な住人の選定の際には、
偏執病、妄想、異常な好奇心を
示した経歴が無い者が優先されます。

SCiPの取り扱い方法を記載した収容プロトコルの抜粋。
SCiPが発見されているにも関わらず
監視を行うとはいえ
他の住人を住まわせたままにするということは
つまりSCP-4517が他の人間に
直接危害を加える存在ではないということが分かります。

単純に、SCP-4517は
自身の説明を可能とする類の性質を
一切持ちません。

説明: SCP-4517は、イングランド・リーズの
三階建てアパートの一室のバスタブ内に存在します。
長さ170cm、重量55kgであり、主観的性質・形質を持ちません。

ここでSCP-4517の大きさと
それが持つ特異な性質が明らかになりました。

主観的性質・形質を持たないということは、
つまり私たちはそれについて
「どれだけ怖いか」とか
「どれだけかわいいか」とか
「どれだけ危なそうだ」とかいった
主観的な印象一切抱くことができない
ということを意味しているのでしょう。

かといってSCP-4517について
何も知ることが出来ないというわけではなく、
報告書に明記されているように
全長や重さ、温度など
客観的に数値化できる情報については
計測することもできるし
他人に伝えることもできるという
非常に奇妙な性質を持っているようです。

N度とは何か

N度(誤伝達部門所属の研究員らが命名)とは、あらゆる実在実体が有する客観-相対的な(そして普通程度に主観的と推測される)性質であり、対象をSCP-4517と比較することで定量化が可能です。SCP-4517はN度=0の基準に相当します。

続いて本報告書を読み解く上で
最も重要となる「N度」なる単位について説明です。

とはいえこれを読む限りでは
「N度」が何を表す単位なのかは一切見えてきません。

はっきりしているのは
・SCP-4517のN度は0である
・SCP-4517をベースラインとして様々な物の相対的なN度を知ることができる
・N度とはなんらかの相対的な基準に関係する単位である
・N度は財団の開発したAI(Balance.aic)によって測定される
ということだけ。

そしてこのN度が何を示すのか、
そしてSCP-4517の正体が何なのか
という本報告書の肝の部分については
以下に掲載するN度の測定データから
私たち自身で推理していくこととなるのです。

補足:誤伝達部門(DoMc)について

N度の説明の箇所で
唐突に名前が出てきた
誤伝達部門(DoMc)。

私もこの報告書で初めて
その存在を知りましたが、
他にもSCP-4288、SCP-4467、SCP-4352など
比較的最近の報告書でその名を見つけることができました。

その名称と彼らが登場する
SCPの性質から推測するに、
情報伝達になんらかの影響を及ぼす
SCiP専門の部門であると思われます。

補遺 | Balance.aic 出力ログ (一部抜粋):

物体/実体N度
財団支給のボールペン2.8
リンゴ (グラニー・スミス品種。)12
自動車 (1998製ビュイック・センチュリー。エージェント・スヴェンスカが所有。)11,300
[簡潔のため省略]
10ポンド紙幣40
~200,000ポンド相当の投資ポートフォリオ90,880
グリフィス研究員22,140,000
レスター上級研究員30,090,000
D-00340 (元犯罪者、連続放火の罪で有罪判決を受けた。ベテランのピアニスト。)912,300
D-00341 (元犯罪者、連続殺人の罪で有罪判決を受けた。)144,600
[簡潔のため省略]
ぬいぐるみ (新品、包装状態。)87
ぬいぐるみ (SCP-4517と同じアパートの一室から回収。深刻な劣化が見られ、製造から15年以上が経過していると推測される。)2,300
[簡潔のため省略]
ダミアン・ピスク (SCP-4517を内包するアパートの一室の最後の住人。)0
ラングドン・ピスク (上記対象と兄弟関係。イングランドのダラム大学でかつて勤務していた数学者。)比較リジェクト; 整数値オーバーフロー

リストを眺めてみると
気づくことが沢山あるかとは思いますが
まずは上から順番に見ていきましょう。

ボールペン、リンゴ、車の場合

リストの最初の三行に記載されているのは
およそ関連性が見つからない次の三点です。
・財団支給のボールペン(N度2.8)、
・リンゴ (グラニー・スミス品種。)(N度12)、
・自動車 (1998製ビュイック・センチュリー。エージェント・スヴェンスカが所有。)(N度11,300)。

大きく価格の高いものほど
N度も高くなっており、
ここだけみるとN度とは
物の「価格」や「質量」を
表す値のようにも思えます。

紙幣の場合

次にリストされている品物は
・10ポンド紙幣(N度40)
・~200,000ポンド相当の投資ポートフォリオ※(N度90,000)
の二点です。
(※投資ポートフォリオとは現金、預金、債券などの
金融資産の保有状況を記した書類のこと)

さてここで
10ポンド紙幣のN度を基準として
1ポンド = 4Nと仮定するとどうなるでしょうか。

この仮定に基づいて
1ポンド140円とした場合、
先述した3つの品物の値段はそれぞれ
・ボールペン(N度2.8 = 98円)、
・リンゴ(N度12 = 420円)、
・自動車(N度11,300 = 395,500円)。
となり、車を中古売却価格として考えれば
まぁありえなくはない範疇に収まります。

残る1点の投資ポートフォリオについては
上記の計算ベースで3,150,000円(約22500ポンド)となり、
この点は判断が難しいところですが
もしこのポートフォリオが
著名投資家や大企業の詳細な投資データだとすれば
それだけのお金を出して買う人間がいても
おかしくはありません。

はてさて、
このままN度は物の値段を図る値で確定なのでしょうか…?

人間の場合

さて、続いてリストに登場するのは
決して値段をつけることができないという意味で
これまでと根本に違う品物…「人間」です。

そして人間として
最初にリストに名が挙がったのは
財団の所属と思われる
グリフィス研究員(N度22,140,000)と
レスター上級研究員(N度30,090,000)の2名。

ちなみに10ポンド紙幣の法則で
両者のN度を日本円換算すると
グリフィス研究員 = 774,900,000円
レスター上級研究員 = 1053150000円
となります。

この数値を見て、
私が最初に思い浮かんだのは
「N度で人間を評価した場合、
その人が生涯に稼ぐ金額が
算出されるのではないか?」
という推測でした。

生涯収入10億というと
2000万前後の年収で
やっと届くかどうかの金額ですが
財団の財力や組織力を考えれば
上位の研究員はそのくらい
稼いでいても不思議はありません。

とはいえこれだけでは
まだまだ根拠に乏しい感があるので
この仮定はひとまず保留として
次の項目を見てみることにしましょう。

D-00340(N度912,300)と
D-00341 (N度144,600)という
どちらもDクラス職員の二人です。

すぐに気づくのは、
先の研究員二人に比べて
どちらも桁が2つほど低く、
さらに元ピアニストかつ放火で逮捕された
経歴を持つD-00340の方が
殺人で逮捕された経歴だけを持つD-00341よりも
6.5倍ほどN度が高くなっていることです。

これはピアニストの経歴がプラスに働いたとも
殺人の経歴がマイナスに働いたとも
あるいはその両方であるとも考えられますが
なんにせよN度がその人の社会的客観的な
評価と連動していることは間違いないでしょう。

ぬいぐるみの場合

再び[簡潔のため省略]が挟まれた後、
リストに挙がったのは
新品のぬいぐるみ(N度87)と
SCP-4517と同じ部屋で発見された
使い古しのぬいぐるみ(N度2300)の2つです。

さて、この2品目を比較すると
「深刻な劣化」とまで表現される
後者のほうがN度が30倍近くも高く、
先に挙げた「N度とはものの値段を評価する値である」
という仮定には当てはまらない結果となっています。

そしてこのデータは同時に
先に上げていたN度が
「物の質量」であるという考えも同時に否定することになり、
後者のぬいぐるみが使い古された状態で
SCP-4517と同じ部屋から見つかったことと合わせると
N度を合理的に説明する最も有力な説は
おそらく次のようなものでしょう。

「SCP-4517は自我を持った生命体であり、
N度とはSCP-4517から見た
主観的なものの価値の大小を表す数値である」

この説に則れば
今までのリストに出ていた品物の
N度のばらつきにも
筋の通った説明がつくように思えます。

しかしそうなると気になるのが
SCP-4517の正体と
その異常性の原因です。

この最後の謎を読み解くには
リストの最後に記載された
二人の人物のデータに着目する必要があるでしょう。

ダミアン・ピスクとラングトン・ピスクの場合

リストの最後に記されていたのは
ダミアン・ピスクと(N度:0)
ラングトン・ピスク(N度:整数値オーバーフロー)という
兄弟関係にある二人の人物の名前です。

そしてこの二人、
どちらもこれまでとは明らかに
異質な量のN度を有しています。

まずSCP-4517を内包する
アパートの一室の最後の住人である
ダミアン・ピスク氏のN度はなんと0。

そう、件のSCP-4517と
全く同じN度なのです。

そして…この時点で
勘の良い方はピンときたかもしれませんが
このダミアン・ピスク氏こそが
ずばりSCP-4517の正体です。

思い返してみれば
報告書の冒頭に記載されていた
SCP-4517の大きさは
長さは170cm、重量は55kgと
ちょうど、小柄な成人男性の体格に一致します。

そしてこのことを踏まえて
先述した仮説と組み合わせると
N度はダミアン・ピスク氏から見た
人や物の価値を表した値ということになります。

つまりダミアン氏から見て
リストの研究員は殺人犯のDクラス職員より
200倍以上価値があり、
SCP-4517、つまりダミアン氏の
部屋で発見された、おそらく
ダミアン氏が子供の頃から愛用していた
古びたぬいぐるみはダミアン氏にとって
新品のぬいぐるみより30倍の
価値があった、というわけです。

そして…
これらの過程に加えて
リストの最後に名前が記された
数学者のラングトン・ピスク氏が
数学者でかつダミアン氏の兄弟であり、
かつそのラングトン氏から
N度:整数値オーバーフローという
天井破りなN度が検出されていること、
最後にSCP-4517がバスタブの中で
発見されたことをを合わせて考えると
本SCPの誕生にまつわる悲しい
顛末が浮かび上がってきます。

SCP-4517(それほどじゃない)の解説(ネタバレあり)

仮にダミアン氏がSCP-4517で、
N度がダミアン氏から見た相対的な
物の価値であった場合、
ダミアン氏が自身の価値を
限りなく低いものだと
考えていたことがわかります。

なぜなら
殺人犯のDクラス職員はおろか
りんごやボールペンですらも
N度がマイナスにはなっていない以上、
ダミアン氏は自分よりもそれらの方が
まだ価値があると考えていた事になるからです。

その上でダミアン氏の兄弟である
ラングトン氏のN度がオーバーフローを
起こすほど以上に高くなっていたのは
ダミアン氏が兄弟のラングトン氏に対して
個人的な強烈な劣等感を抱いており、
そのために評価基準に
認知の歪みが生じたことが原因だと考えられます。

リストのラングトン氏の名前とあわせて
名門大学の元数学教授という
華々しい経歴が記載されているのは
明らかにそれを匂わせるための伏線でしょう。

またラングトン氏が
元数学教授ということで
兄弟の年齢は若く見積もっても40代以上。
それなのにいまだにアパート暮らし
(しかも写真を見る限り
おそらく安めの)から抜け出せないダミアン氏が
ラングトン氏にどのような感情を
抱いていたのかは想像に難くありません

そして、
ここからはかなり気が滅入る想像になりますが
SCP-4517=ダミアン氏がバスタブで発見され、
その後もそこから動いていないということは
彼がそこで自殺したことを暗示しています。

財団は浴槽に残された彼の死体を
基準としてN度を計測していたのです。

ダミアンはなぜSCiPになったのか?

さて、ここで残る最後にして
最大の疑問が「なぜダミアン氏の死体が
一切の主観的性質・形質を持たない
異常性を持つSCiPとなったのか?」

という疑問です。

まず、もし彼が生前から
そのような性質を持っていたとしたら
そもそもアパートを借りて暮らせるような
普通の人生を送れたわけもなく、
この異常性は彼の死後初めて
発現したと考えるのが自然です。

ですがそうすると
なぜ、彼が死んだ後にSCiPとなったのか
という大きな謎が残ってしまいます。

報告書の中にそれを示すヒントがない以上、
ここは想像で補うしかありませんが、
私が今の所思いつく仮説は次の二つです。

仮説1:ダミアン氏の劣等感が極限に達したことで、
「他人に自分を評価して欲しく無い」という願いが現実化した

SCPシェアワールドの中には
世界を滅ぼしかねない
現実改変能力を持つ少女(scp-239)や
生まれつき死んでいる男(SCP-650-JP)
がいるのだから
ダミアン氏が同じように
異常な才能を秘めていたとしても
特別な才能の持ち主であったとしても
不思議はありません。

ただこの場合悲しいのは
その能力が完全に彼の
ネガティブな感情から生まれていて、
なおかつ自殺の後という
完全に取り返しのつかない
タイミングで発現したことですが…

仮説2:SCiPを生み出す能力を持つ第三者が
何らかの理由でダミアン氏の死体に目をつけ
彼をSCiPにした

Are We Cool Yet?のような
異常を作り出すことができる団体や
その他未知の第三者によって
ダミアン氏の死体が
SCiPに改造されたとする説です。

主観的説明が不可能な死体に
用途があるとは思えないので
1の説よりも可能性は薄いですが、
一応、仮説として挙げてみました。

おわりに

SCP-4517についての解説、
ご納得いただけたでしょうか。

本SCPは多くの優れた
報告書がそうであるように
書き手の巧みな暗喩と
要点を読者の想像に委ねる手法によって
短い報告書に驚くほどの
深みを与えています

来年もこのような優れたSCPと
沢山出会えることを期待したいですね。
それでは。

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