2020年最もupvoteされたSCP(暫定)。SCP-5858「ニューヨーク 親切なロシア料理店」の解説と感想

SCP

皆さんどうも、daimaです。
本日は今年2月に投稿されたばかりでありながら
既に330という高いupvote数※1を獲得している
「SCP-5858 ニューヨーク 親切なロシア料理店The Kindness of Strangers」
解説と感想をお送ります。
(※1 記事執筆時点の本家サイトのupvote数)

説明

それでは早速オブジェクトの説明から見ていきましょう。

SCP-5858
SCP-5858

SCP-5858はペンシルベニア州モントゴメリー郡アンブラー自治区に位置する”the Ambler Theater”です。
2018年、当劇場は自発的にIO-ロックド・シナリオに突入し、それ以来17520時間にわたって「欲望という名の電車」を上演し続けています。

SCP-5858に指定されているのはペンシルベニア州のとある劇場で、
その異常性は「欲望という名の電車」という舞台劇が
17520時間、つまり2年間にわたって継続して上映され続けている
というもの。

ちなみに「欲望という名の電車」は
1947年の初演されてから現在に至るまで
世界中で上演され続けているポピュラーな戯曲※2ですが
通常であれば2時間ほどで終了する演目です。
(※2 演劇用に書き下ろされた文芸作品のこと)

そもそも、二年間も同じ劇場に閉じこもって
演技を続けられる役者も
それを見続けられる観客も
通常であればありえない存在ですよね。

SCP-5858の直接的影響を受けた人物は演者、舞台係、客を含め87名います。
その他のアンブラーの住民も受動的影響を受けており、演劇の不自然な遅延も完全に自然なものと考えています。

もし仮に2年間も劇場に入っている人がいたら
3日も経たずにその家族や友人が騒ぎ出すのではと思いましたが
どうやらこのSCiPは内部だけでなく
外部の人間の認識にも一定の影響を及ぼすようです。

またここまでの説明から、
このオブジェクトは何らかの現実改変、記憶操作に類する
異常性を有していると言えそうです。

SCP-5858-1から1314はthe Ambler Theaterのスタッフで、当該ロックド・シナリオの特有の影響を受けています。
これらのスタッフは赤いシャツ、黒いベスト、そして恒常的な全身の振動(見た目はハチドリの羽の動きに似ている)によって容易に特定可能です。

すべてのスタッフは速度・膂力・空間認識能力の向上を示しており、平均的人類の限界値の約5倍を記録します。
スタッフが日課の職務を行っている際には、その高ペースにもかかわらず、主な目的は「メンテナンス」というロックド・シナリオを果たすことで、外部からの干渉は全て攻撃的に妨害します。

SCP-5858は常人の約五倍の身体能力を持った
スタッフによる自己防衛機能を備えています。

外敵を排除する機能があるという事は
つまりこの現象自体が誰かが意図的に
発生させているものであるようにも思えますが
果たしてどうなのでしょうか。

また、報告書には恒例のDクラスを用いた
複数回にわたる実験の記録も記載されていますが
得られた結果はあまり芳しいものでは無かったようです。

基本的に実験は全て最長でも
3時間以内に被験者の正体がばれて
中止を余儀なくされてしまっていますし、
ある回の実験に至っては
スタッフに成りすまして潜入したDクラスが
SCP-5858に取り込まれるという結果を引き起こしています。

(そしてこの失敗の反省としてか、
特別収容プロトコルには「いかなる状況においても、
SCP-5858に劇場スタッフを装って入場することは許されません。」
の一文が追記されています。)

現時点で、全ての被験者は何らかの違反行為によって最長でも3時間以内に劇場を退出させられています。
 2020年2月15日、機動部隊カイ-5″ニュートンのいじめっ子たち”が当該アノマリーの収容/無力化を目的として派遣されました。

Dクラスによる実験では埒が明かないと感じたのか、
財団は彼らの所有する機動部隊のひとつである
カイ-5″ニュートンのいじめっ子たち”の投入を決定します。

機動部隊カイ-5の探査ログ

ここからは機動部隊カイ-5と
財団側との任務中の通話記録(探索ログ)の内容を追っていきます。

ちなみにこの機動部隊カイ-5、
私は初めて耳にする部隊でしたが
同じくカイ-5が登場するSCP-4382報告書内の記述によると
彼らは「通常の科学原理から逸脱している
異常な空間の調査を専門とする機動部隊」
とのこと。

財団の機動部隊と言えば
活躍するときは活躍するものの
報告書によってはスプラッタホラー映画の犠牲者張りに
ひどい目に合う事も多い役どころですが
果たしてカイ-5は無事に任務を果たすことができるのでしょうか…?

探査ログ1 – 15/02/2020

最初の探査ログ1 ではカイ-5の4人のメンバーが
劇場のパトロンを装ってSCP-5858内部に潜入する様子が描かれています。

カイ-5-1|サクサ: カイ-5問題ありません、司令部。シナリオの取り扱い手順に準拠してます。イヤホンの他に装備品はありません。少々心もとありません。
カイ-5-4|フレッチャー: だからホルターストラップじゃなくてハイネックのを着て来いって言ったのに。
カイ-5-1|サクサ: テクノロジーが足りないってことよ、サム。まあ確かに、ハイヒールでミッションに参加するのは変な感じね。

SCP-5858内部のスタッフにばれないように
設定に合わせた変装で任務に臨むメンバー達。
さながら気分はジェームズ・ボンドといったところでしょうか。

ちなみにカイ-5のメンバーの内訳は以下の様な感じです。

  • カイ-5-1|サクサ(♀ : チームのリーダー的存在であり、今回の任務ではヒガシの恋人という設定で参加。)
  • カイ-5-2|ヒガシ(♂ : 隊員の一人。真面目。後に重要な役割を果たす。)
  • カイ-5-3|ヴォルコフ(♂ :  隊員の一人。)
  • カイ-5-4|フレッチャー(♀ : 隊員の一人。)

カイ-5-3|ヴォルコフ: サマンサ、お前スーパーヴィランの召使いみたいだぜ。
カイ-5-4|フレッチャー: つまりあなたの召使いみたいってこと、えっと、「ヴォルコフ」?
カイ-5-2|ヒガシ: 二人とも、そこまでだ。装いは一般人のものかもしれないが、今は任務中だ。
カイ-5-1|サクサ: 彼の言う通りよ。おしゃべりはここまでにしましょう。でもヒガシ、言い換えれば私たちは一般人のふりをしているのよ。あなたにも「ふつうの人」らしくしてもらう必要があるわ。

隊員同士の何気ない会話ですが
この短いやりとりからだけでも
それぞれの隊員たちのキャラクターが
何となく見えてくるのが面白いですね。

機動部隊カイ-5は劇場に通じるメインエントランスに侵入する。チケットブースにはSCP-5858-6(エドウィン・マクアリスター、15歳。2年前からチケットブースに着座している)がいる。他のスタッフと同様SCP-5858-6の頭部もあらゆる方向に高速で旋回しており、一様なぼやけを生み出している。マクアリスターは5-1が接近するとともにそちらへ視線を向け、早口で、しかし明瞭に話し始める。
マクアリスター: (早口で) こんばんはチケットはお持ちですか?
5-1は4枚のチケット(アンブラーにいて劇場に行かなかった者から回収したもの)を差し出す。

チケットの出どころが明らかに。

今回は使われなかった本物のチケットを使用したようですが
もし、財団が本物そっくりの偽のチケットを
複製して使っていたらバレていたのでしょうか。

探査ログ2 – 15/02/2020

探査ログ2では劇場に潜入した隊員たちの様子が描かれます。

カイ-5-4|フレッチャー: 分かっています、すみません。5-1と5-2は最前席付近に着座しています。客は全員シナリオに組み込まれています – 栄養失調に陥ってもいなければ身体の劣化も起こっていませんし、ストレスの兆候もありません。退屈しているようにすら見えません!
劇は「欲望という名の電車」からは離れていっているように見えます。ブランチは数千回前の回で病院から脱走し、現在はモロッコに逃げ延びています。スタンレーはいまだに彼女を追っているのですが、その理由はスタンレーがシェップ・ハントレーに雇われて、ダイアモンドを盗み出したブランチを追っているからです。そのダイアモンドはブランチに超自然的な-
サイト-24: ありがとうございます、5-4。しかしこれが発展的ロックド・シナリオであることはすでに把握しています

カイ-5-4|フレッチャーの報告によると
SCP-5858内部で上演されている「欲望という名の電車」は
ストーリーが本来のそれからはるかに逸脱していて、
さながら人気が出すぎたために打ち切るに打ちきれなくなった人気少年漫画の様に
ひたすらに後付けでストーリーが延長されまくっているようです。

ご参考までに、本来の
欲望という名の電車のあらすじはこんな感じ。(by Wikipedia)

かつて南部の大地主だった家柄の、若い未亡人のブランチ・デュボア。彼女は夫の死後、諸事情から故郷を離れ、兵隊あがりの工場労働者スタンリー・コワルスキーと結婚した妹のステラの下に身を寄せる。気位の高いブランチと粗野なスタンリーはそりが合わず、しだいに衝突するようになる。ブランチはスタンリーの同僚のミッチと知り合い、彼と結婚して人生を立て直すことに望みをかける。しかしスタンリーはブランチが故郷を離れた理由が、同性愛者だった夫の死後に精神の安定を失い、多くの男たちと淫蕩な生活を送った挙句、少年を誘惑したことで街にいられなくなったことを知り、ミッチにそれを暴露する。ブランチはミッチに罵られて捨てられ、スタンリーにレイプされる。そしてブランチは発狂し、施設に入れられる。

登場人物の名前や基本的な設定は変わっていないようですが、
ストーリーは先ほど述べたように大きく本来の筋から逸脱しています。

また、フレッチャーが報告の最後に
「そのダイアモンドはブランチに超自然的な-」と口にしていることから
もしかするとその内容はSF的な方向に向かいつつあるのかもしれません。

カイ-5-4|フレッチャー: ええ、もちろん。すみません、ただ…びっくりするほど面白かったんですよ! 2年まるまる座り続けられるかはわかりませんが、それでも- いえ、ちょっと待ってください。

ちなみに劇の内容はびっくりするほど面白かったそうです(フレッチャー談)。

しかし2年間も同じ話の延長を続けて
まだ面白いと言える話を展開できるとは
この異常の主は大したストーリーテラーですね。

カイ-5-4|フレッチャー: さあ。このアノマリーの発生源を特定できたように思います。退屈そうにしている人がいない、と言ったのを覚えていますか? ヒガシが- すみません、5-2が、退屈そうにしている者に気づいたのです。
サイト-24: それで- その者に接触したのですか!?

異常現象の原因に目星がついたと話すフレッチャー。

初回の潜入で早くも原因を特定してしまうとは
さすがは問題解決のエキスパートである
機動部隊メンバーといったところでしょうか。

ちなみにここで財団側の
通信相手の口調が少々焦って見えるのは
基本的にカイ-5メンバーの正体をばらさない方向で
任務を進める手はずだったからです。

カイ-5-4|フレッチャー: なんですって? ああいえいえ、この男はその者の隣に座っていたんです。サ- 5-1がこの男を連れていくよう合図してきたので、トイレまでつけてきたんです。愛想よくしようとしたんですが、いや本当ですよ、それでもこの男はどうしても、どうしても席に戻りたがったんですよ!

サイト-24: あなたは正体が割れないよう命じられています、5-4。これは間違いなく正体が割れています。

問題の元凶(仮)を絞り込んだカイ-5ですが、
フレッチャーの方はどうやら不穏な気配。

纏めるとフレッチャーは
他のメンバーが元凶の人物(仮)に接触できるように
その人物の隣に座っていた人物を足止めしようと
トイレまで尾行していたようですが
どうやらそこでひと悶着起きてしまったようです。

トイレのドアが破壊され開けられるのが聞こえる。3ミリ秒にわたる非常な速足の音ののち、何者かが個室のドアを激しく叩き、リノリウムの砕ける音が聞こえる。
SCP-5858-3: (早口で) すみませんあなたに苦情が寄せられています出てきていただけますか?

カイ-5-4|フレッチャー: (…) クソ。

そうこうしている間にフレッチャーは
スタッフに取り押さえられてしまいました。

彼女の安否やいかに…?

探査ログ3 – 15/02/2020

続く探査ログ3ではカイ-5-2|ヒガシが
問題の元凶と思われる人物に接触する様子が描かれます。

5-2は売店を訪れたのち客席に戻り、後列の席に滑り込む。着席したとき、電子音が5-2のイヤホン越しにかすかに聞こえる。
カイ-5-2|ヒガシ: (ささやき声) やあ。
少年(?): (ささやき声) えっと… こんにちは?
カイ-5-2|ヒガシ: そのゲームボーイ、かっこいいね。ポケモンかい? 「赤・緑」は弟とやってたよ。

ヒガシはゲームボーイでポケモンをプレイしていた
一人の少年に声を掛けます。

カイ-5-2|ヒガシ: まあ、私もさ。私の- その、フィアンセはこういうところに連れ出してくるんだ。彼女は最前列に座ってるよ。こんなところ出られたらいいのにね?
少年(?): う… その… 大丈夫。これでもましな方だから…
カイ-5-2|ヒガシ: なによりましだって? … 大丈夫かい?
少年(?): 大丈夫。

会話の中で少年の両親が少年と離れた席に座っていること、
少年が劇場で退屈しているにもかかわらず
「これでもましな方」と語っていることから
少年の家庭環境に何らかの問題があることが推測されます。

カイ-5-2|ヒガシ: (さらに低いささやき声) 名前はなんていうんだい?
少年(?): (…) ティム。
カイ-5-2|ヒガシ: やあティム、私はヤスオだ。
少年(?): (…) かっこいい名前だね。
カイ-5-2|ヒガシ: ありがとう。ポケモン、やっててもいいよ。ほかの人に言ったりしないから。

寂しげな様子の少年に親しげに話しかけるヒガシ。
この描写から彼が人間らしい
優しさを備えた人物であることが分かります。

これ以上電子音は聞こえない。その後20分にわたり、まるでレコードが飛んだように、全ての演者がどもり始め、セリフを中断してしまう。合間に流れていた音楽も消える。
突如、二名の人物がステージに現れ、現在の物語とは別の演技を始める。彼らの話声は、壁やドアの向こう側から聞こえているかのように、異常なほどくぐもっている。

ヒガシと少年の会話の直後、舞台に異変が起きます。

突如すべての音楽が消え、
これまでの物語とは明らかに異質な
男女のやりとりが唐突に演じられ始められたのです。

男(?): じゃあなんだ、俺は友達も作っちゃいけないってのか!?
女(?): ええ、「友達」ね。ダグみたいな?
男(?): そうとも! お前は考えすぎだ! 俺はもうバーにもいけねえし同僚とも過ごせねえ、それもこれもお前が俺を疑って-
女(?): 実際にしたんじゃないの! あなたは-
男(?): それは学生の頃の話だろうが! 俺たちはもう結婚している! 子供もいる! 俺がお前を愛しているってわかってもらう以外にどうすりゃいいんだよ!?
女(?): 触ってもいいわよ、今回だけは。
男(?): ああそうかそうか! 毎日12時間も働いてくたくたになって家に帰ってきて、それをいいことにてめえは俺のことを-
女(?): もういいわよ、もう… またお隣さんに警察を呼ばれちゃうわ。とりあえず… 支度をしましょう。今夜はシェリーの劇を見に行くって、約束してたわよね。この話は帰ってきてからにしましょう。
男(?): (…) ああ。まだ話は終わってないがな。今夜帰ってきたら、この話もそれでおしまいだ。

会話の流れから察するに、男の方が浮気をして
女の方がそれを問い詰めているという場面でしょうか。

最後に男が「今夜帰ってきたら、この話もそれでおしまいだ。」
と言っているのは、今夜の劇を最後にもう離婚しようという意味でしょうか。

その後上記の会話を以て劇は一旦中断し
観客たちも休憩のためメインロビーに移動しますが
その最中、ヒガシの通信に付近から誰かが鼻をすすり上げる音が入り込みます。

カイ-5-2|ヒガシ: なあ… ティム? 大丈夫か-
大きなハムノイズによりマイクからの音が聞こえなくなる。聴衆は席から立ち上がる。ステージから声が聞こえる。

鼻をすすり上げ泣いていたのは
先ほどヒガシが声をかけた少年でした。

そんな少年にヒガシは再び何事かを語り掛けますが
その内容はノイズに紛れてしまい分からず仕舞い。

この時ヒガシの話した内容が
何か重要な意味を持ってくることが予想されますが
このログは一旦ここまで。

次はいよいよ最後の探索ログです。

ここまでで謎ときに必要な要素は大方出そろい
中にはこの先の展開の予想がついた方もおられるかもしれませんね。

それでは引き続き最後のログを見ていきましょう。

探査ログ4 – SCP-5858

事後報告

5-1と5-2はメインロビーで客に囲まれているように聞こえる。付近には二名の高齢のパトロンが立っている。

劇が休憩時間に入り
サンサとヒガシはメインロビーに移動しました。

彼らの近くにいる2人の老人客は
先ほど上演された男女のやり取りについて
お互いの意見を交換し合っています。

カイ-5-2|ヒガシ: (…) ああ… ハニー。その- ええと- ちょっとうるさかったんだよ、ほら、ステージに近かったからさ。だから後ろの方に下がってたんだ。ところで、我らが友のサマンサはどうしたんだ?
カイ-5-1|サクサ: 走って行ったの、心配だわ。かわいそうに、ひどい食あたりになったみたいなの。外に連れていくのに案内係さんが5人も手伝わなきゃいけなかったのよ!
カイ-5-2|ヒガシ: 彼らは大丈夫なのか?
カイ-5-1|サクサ: ええ、その- ひどいことになる前に、歩道の方へ連れていけたわ。

SCP-5858に感づかれないよう、
隠語を用いてフレッチャーの安否を確認するヒガシ。

周囲の客が増え始める。複数のカップルが叫びあい始める。

そんな中、周囲の観客たちの様子に異変が起こり始めます。

客A(?): いつも貧乏ゆすりばっかり! もうどこにも連れていけないわ! 本当に子供っぽい、最低の役立たずね!
客B(?): 勝手にしろ! もうこんなところにもいたくねえ!
客C(?): いっつもグチグチグチグチ! なんで私がこんなに働いてるか分かってるの!
客D(?): てめえこそ俺がどうしてこんなに働いてるかわかってんだろうな、このアバズレが! なんで俺がこんなクソみてえな家族と暮らさなきゃならねえんだよ!?
客E(?): もう私のこと愛してないんでしょ! ずっとそうだったのね!
客F(?): てめえなんかもう知らねえよ!

突然お互いをののしり始める観客たち。

その口調はまるでついさっき上演されていた
男女のやり取りのような罵り合いです。

SCP-5858内の87の個体が突如として静かになり、「ピシャリ」という音が一度聞こえる。86名の人物が床にぶつかる音が聞こえ、静寂となる。

しばしの喧騒が続いた後、
観客たちは”ある1人”を除いて
全員がその場に崩れ落ちました。

カイ-5-1|サクサ: (…) 何が起こっているの。ねえ、あなた分かる- ヒガシ? ヒガシ、何してるの?
カイ-5-2|ヒガシ: 「ふつうの人」はこうする。

どうやらヒガシが何かをしたことで
このような事態が起こったようです。

5-2は前方へ歩みを進める。足元でポップコーンの砕ける音が聞こえる。彼が接近するにつれ、マイクから少年の泣き声が徐々に聞こえてくる。
通信が切断される。

静かに歩みを進めるヒガシと
その先で泣きじゃくる少年。

そう、SCP-5858の異常の原因は
ヒガシと会話をしていたあの少年だったのです。

さてここで少年がSCP-5858の
元凶だったことが確定しましたが
・少年は一体どんな存在なのか?
・探査ログ3の最後でヒガシは少年に何を話したのか?
という二つの大きな謎がまだ残されています。

これらの謎を明らかにするため、
最後に探査ログの後に記載されている
補遺と事後報告を読んでいきましょう。

補遺と事後報告

補遺 – 15/02/2020 | 15:13: アンブラーでの異常現象はすべて突如として終息しました。SCP-5858内に友人や家族がいたものはパニックに陥りました。時を同じくしてSCP-5858への扉が開き、人々は外へ出ました。多くが道路へなだれこみ、路上で泣き始め、緊張から転倒しました。カイ-5の人員は全員が無事であると報告されました。

上記探索ログの直後、
SCP-5858の中に囚われていた人たちは
二年ぶりに外の世界へ解放されました。

補遺 – 15/02/2020 | 15:17: 劇場から最後の三名の客が出てきました。一名の少年が男性と女性の間に立って、両名の手を握っていました。三名は街のメインストリートを最初の交差点まで歩いていったのち抱擁を交わし合い、別々の方向へ少し歩いていき、消滅しました。

そして例の少年とその両親も…

しかし記録によると少年と両親は
彼らが交差点まで行った後に別の方向に歩いていき、
その直後に消滅してしまったとあります。

この描写については個人的に少々思う事があるので
後ほどもう一度触れてみたいと思います。

モーガン管理官: あそこで正確には何が起きたのですか、キャプテン?

カイ-5-1|サクサ: すでに報告は提出しましたが。

モーガン管理官: その通りです、しかしまだ-

カイ-5-1|サクサ: 管理官、お言葉を返すようですが、もう終わってしまったことなのです。管理官は私に何が起こったのか尋ね、そして私は完全で客観的な詳細を提供いたしました。

モーガン管理官: (…) つまり、報告するべきことはこれだけということですか? あなたは、5-2があの少年になんと言ったのか、全く聞いていないのですか?

潜入作戦の翌日に行われた
サクサ隊長によるサイト管理官への事後報告の場面。

管理官の口ぶりからして、
やはりヒガシ隊員が探索ログ3の最後で少年に話した内容が
SCP-5858の異常の収束の引き金となっていたようです。

カイ-5-1|サクサ: 私の耳はまだ鳴っているようですよ、管理官 – ご承知だとは思いますが、あの叫び声のせいでです。私は彼が対象に接近するのは見ました。何も聞いてはいません。

モーガン管理官: 分かりました。ありがとうございますキャプテン、これで終わりです。

カイ-5-1|サクサ: 彼は良いエージェントですよ。

モーガン管理官: はい?

カイ-5-1|サクサ: ヒガシです。彼はあきれるほど良いエージェントです – 少々保守的なところはあるかもしれませんが、でも- ええ、そうですね、あなたが今彼を叱責しているのはわかっています。彼があの子に何と言ったのかは知りようがありませんが、しかし管理官、私はそれは正しい理由があってのことだと知っています。

モーガン管理官の追求から
ヒガシをかばうサクサ。

どうやらヒガシのやったことは
人間としては正しくても
財団という組織からすると
非常にまずいことだったようですね。

モーガン管理官: お座りください、エージェント。

カイ-5-2|ヒガシ: いえ、お気に障らないようであればこのままで。

モーガン管理官: (…) よろしい。なぜここにいるかは分かっているようですね。

カイ-5-2|ヒガシ: はい、管理官。

続いてヒガシが事後報告の場に立ちます。

モーガン管理官: 通信が切断されていた間、あなたのイヤホンは自動的にハードバックアップモードに切り替わっていました。すべては録音されていました。我々は、あなたがあのアノマリーに何と言ったのか把握しています。

カイ-5-2|ヒガシ: あの子のことですね。

探索ログ3で通信が途絶えていた間の会話も
実はちゃんとバックアップされてました。

モーガン管理官: あのアノマリーです、エージェント。自分が何をしたのかは分かっていますか?

カイ-5-2|ヒガシ: はい、管理官。私は彼の両親が争っている間、彼と話し合っていました。私にも同じ経験があるという話をしました。私の目には助けを必要としている少年が映ったので、助け出しました。

モーガン管理官: その「少年」が現実改変者だったのです、エージェント。彼はロックド・シナリオを作り出し、86名を2年間にわたり劇場内にとらえていたのです。

ここで件の少年が「でく人形さん」や「James Franklin」と同じ
現実改変能力者であり、SCP-5858の異常現象を発生させた張本人でもあったことが明言されます。

これまでの内容を総合するに、
SCP-5858の発生当日に両親の離婚を知った少年は
異常の舞台となった劇場の中で
無意識化で自身の現実改変能力を発現させ、
同じ劇を延々と繰り返させることで
両親の離婚という辛い現実が訪れないようにしていたのでしょう。

またこれは想像ですが
少年の能力があの劇場で発現したのは、
もしかするとその劇場に、
かつて幸せだった頃の
家族の思い出があったからなのかもしれません。

そしてこの会話ではヒガシ自身もかつて
同じような家庭環境で育ったことが明かされており、
それが今回のヒガシの行動の動機付けにもなっています。

カイ-5-2|ヒガシ: 現在は彼らはとらわれておりません。ミッションは成功裏に終了しました。

モーガン管理官: 分かっていないふりはやめなさい。あなたは大惨事を引き起こすことで問題を終結させたのですよ! いまや知性を持った、それも12歳程度の倫理観と論理性しかない現実改変者がこの世界に現れたのです! それでも「成功裏」に見えますか、エージェントヒガシ?

カイ-5-2|ヒガシ: (…) いいえ、管理官。

モーガン管理官: 成人の現実改変者であっても、その能力を僅かでも自覚してしまうことがどれほど危険なことかわかっていますか? 子供ならなおさらです。

カイ-5-2|ヒガシ: はい、管理官。

ヒガシが少年に伝えたこと、
それは自身が現実改変能力者であり、
2年もの間他の人々を巻き添えに
家族と自分を劇場の中に閉じ込め続けている事実でした。

しかしそのループも
少年が自分の力を自覚したことで唐突に終わりを迎えます。

ヒガシのこの行動によって少年と86名の人々は
永遠に終わらない劇の悪夢から解放されましたが
それは同時にモーガン管理官が指摘したように
12歳相当の倫理観と論理性しか持たない
コントロール不可の強力な現実改変能力者を
野に放つ
という財団及び人類にとっては
好ましくない事態にも繋がるものでした。

これは例え良心から行われた行動とはいえ
アノマリーの「確保、収容、保護」を旨とする
財団のポリシーに真っ向から反しており、
モーガン管理官がその責任を厳しく追及するのも
管理者側の立場としてはごく当然の反応です。

とはいえもしヒガシ隊員が少年より先に
財団側にこの事実を伝えていた場合、
少年は直ち「アノマリー」扱いされて
一生施設に閉じ込められ続けるか、
あるいは人類に対するリスクとして
終了させられていた可能性もあったわけであり、
それを考慮するとヒガシ隊員の行動も
人情として大いに同情できる部分があります。

モーガン管理官: 感情的にほだされ、信じがたいほどに無責任な行動をとったことについて、少しでも言い分はありますか? 何も言うことはありませんか?

カイ-5-2|ヒガシ: 失望いたしました、管理官。GOCを脱退したときには非人間的で滅茶苦茶な組織から抜けられたと思ったのですが。

ヒガシがこのような行動をとった背景の肉付けとして、
ヒガシがかつてGOC(世界オカルト連合)
に所属していたことが言及されています。

GOCは超常現象の徹底破壊を旨とする要注意団体であり、
極まれに財団と利害が一致して手を組むことはあっても
基本的には目的の為なら手段を選ばない非常で冷酷な集団です。

こうしたSCP知識のある人なら通じる
さりげない設定の盛り込み方はなんともニクイ演出ですね。

モーガン管理官: 話はおしまいです、エージェント。これから厳しい日々が続くと思いますので、弁解を用意しておいてください。

カイ-5-2|ヒガシ: いいえ管理官、弁解などありません。私は苦しむことになるかもしれませんが、実のところ、そんなことは構いません。私は後悔などしていないということを、分かっていただきたいのです。あんな状況に少年が一人でいて… 彼は手を差し伸べてくれる者を必要としていました。彼ももう問題などないと知るべきでしょう。もしまた同じことがあったとしても、私の行動は変わりません。

最終的にヒガシは自身の行動の責任を負うこととなり、
降格処分を受けたばかりか
カイ-5からも除隊を命じられてしまいます。

しかしヒガシはそれでも尚自分の行動を後悔しておらず、
いつかまた同じような場面に遭遇しても
必ず同じ選択をするだろうと力強く宣言して部屋を退出するのでした。

本報告書はこれにて終了です。

一つのストーリーとしても読みごたえがあり、
なおかつヒガシ隊員や少年のその後について
読み手に興味を持たせる幕のひき方でしたね。

感想

2020年に投稿された報告書の中で
一番up voteを獲得している報告書はなんだろうと
興味を抱いてたどり着いた本報告書ですが、
その内容は映画的なスリルと意外性、
そして最後には読み手に希望と考える余地を残す
期待以上の素晴らしい作品でした。

本報告書を読み終えた後、
恐らく多くの方が気になるのが
ヒガシ隊員と少年のその後ではないでしょうか。

少年については
ヒガシ隊員から受けた思いやりを忘れずに
立派な人間に育ってくれれば良いのですが、
モーガン管理官が危惧していたように
精神的に未熟な彼がいつ人類にとって
危険な存在に変貌しないとも言い切れません。

また財団世界には
先ほども登場したアノマリーの破壊を目的とするGOCや
超能力者をスカウトして暗躍する「黒の女王」のような
要注意団体がそこら中にうようよしているため、
そうした団体から悪い影響を受けてしまう可能性も考えれられます。

また補遺の中では少年と両親が
交差点で別れた後に消失した描写がありましたが、
これもまた判断に迷うところです。

少年が自分に現実改変能力があることを自覚したならば
その能力で仲の良い両親と幸せに暮らす
世界を創り出すこともできたはずですが
なぜか少年と両親は最後にバラバラの方向へ向かってから消えています。

これは、もしかすると少年がもはや両親との生活を望んでおらず、
これからは一人で生きていくという
覚悟を決めたことの暗示なのかもしれません。
(この辺の解釈については色々考察を探してみましたが
私の調べた限りでは特に有力な考察を見つけることはできませんでした。)

ともあれ、ヒガシ隊員の取った行動が本当に正しかったのかどうか、
それはいずれ書かれる(かもしれない)
この報告書のtaleで明らかになることでしょう。

それでは最後に、ディスカッションに記載されている
作者T Rutherford氏のコメント(翻訳版)を引用して
本記事の締めくくりとさせていただきます。

“私は「原罪」など信じていません。私が信じるものは「罪の意識」です。悪役やヒーローも信じていません – ただ人々が、彼ら自身が好き好んでではなく、必要に迫られ、あるいはなにか彼ら自身、彼らの周囲、彼らの経験から不明な影響を受けて選択した、正義と悪があるのみです。

とても無知な感じがするのでこう言うのは恥ずかしいのですが、しかし私はこれが真実であると確信しています。事実、命を懸けてもいいとすら思っています! そしてこれこそ、なぜ宣伝組織たちがいつも、私たちが他の人々を憎み恐れるよう教え説き伏せようとするのかわからない訳です。私たちは皆おなじ小さな世界にいるというのに。”

― テネシー・ウィリアムズ

SCP-4382からもたらされたコンセプトでは物足りなかったので、代わりに肉付けしてみました。私はカイ-5をより具体的なものへと発展させ、さらにロックド・シナリオに伴い起こることも具体化させたかったのです。私が思うに、財団は、アノマリーの調査の中で頻繁に起こることには分類法を持っているはずです。これは私の幼少期の経験に基づいています。私はこれからもカイ-5およびそのコンセプトとともにありたいと思っています。いつもながら、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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